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価格が3349万円のキムリアって何だ?!

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皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。

皆さんもテレビでご覧になったかもしれませんが、価格がなんと3349万円もするキムリア(ノバルティス®)という白血病の治療薬が発売になります。

今日は、このキムリア(一般名:チサゲンレクルユーセル)について調べてみたいと思います。

 キムリア(一般名:チサゲンレクルユーセル)とは

キムリアは、患者さん自身の免疫細胞であるT細胞(T cells)を取り出し、そのT細胞に白血病細胞の特徴を遺伝子技術を使って教え込み、数を増やして患者の体内に戻すという、いわゆる「がん免疫療法」のクスリです。

© FNN.jpプライムオンラインより

 キムリアの効能効果

日本で承認された、キムリアが使える疾患は白血病などの血液がんの一種である

です。ここで、「再発又は難治性(Relapse or Refractory)」とは、標準的な治療を施しても効かない(難治性)、あるいは、標準的な治療で一度は軽快~寛解したが、再び白血病細胞が増加した(再発)・・・と言うことで、「既に何通りかの治療を受けたが、治りきっていない」という意味です。従って、キムリアはSecond lineあるいはThird lineの治療薬という位置づけになります。

B細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)とは、急性リンパ芽球性白血病(acute lymphoblastic leukemia)の一種で、白血球の一種であるリンパ球が幼若な段階(これを芽球と言います)で悪性化し、がん化した細胞(白血病細胞)が無制限に増殖することで発症します。がん化した細胞の種類により、B細胞系とT細胞系に大別されますが、その内のB細胞系の白血病です。

ALLは小児期に発症する悪性腫瘍の中で最も頻度が高く、日本での年間の新規の発症数は約500人と推定されています。発症年齢のピークは2歳~6歳であり、やや男児に多いと言われています。前駆B細胞ALLが約80-85%、T細胞ALLが約10-15%、成熟B細胞ALLが約5%を占めています。T細胞ALLは年長児、男児の頻度が他の病型に比べやや多い傾向にあります。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCLとは、悪性リンパ腫の一種で、リンパ球であるB細胞から発生する非ホジキンリンパ腫(nonHodgkin lymphoma)です。名前のとおり、大きなB細胞ががん化してはびこるように増殖していく(びまん性:diffuse)ものを指します。

日本では年間8,000~10,000人程度がDLBCLを発症していると考えられています。

CD19陽性とは、B細胞性の白血病やリンパ腫に特異的かつ高頻度に発現しているCD19というタンパク質が白血病細胞の膜表面にある(陽性)ということです。

患者自身の免疫細胞であるT細胞に教え込むがん抗原がこのCD19となります。

ただし、正常なB細胞の表面にもCD19が発現しているため、正常なB細胞もある程度破壊されます。しかし、これには輸血(免疫グロブリン補充療法)で対処可能だそうです。

いずれにせよ、キムリアが使える白血病は、白血病全体からするとかなりマイナーな疾患です。マイナーだけれども、再発・難治性なので治療がなかなか出来ない・・・ということで厚労省も承認したのでしょう。

 キムリア用法用量

既存の標準療法では、急性の白血病を沈静化させるのに数ヶ月かかり、その後も、再発を防止するための薬物投与が続けられるのですが、キムリアのすごいところは

1回の投与(静脈への点滴投与)で治療が終わる

ということです。これは、患者さんにとって、極めて有り難いことです。

用法用量の概略は以下のとおりです。

保険償還価格の算定資料(中医協)より

ここで、CTL019とはキムリアの開発番号のことです。商品名の「キムリア」は、法律で承認が下りるまでは使えないことになっています。

ポイントは、患者さん自身のT細胞(白血球)を取り出して、そのT細胞にCD19を認識する遺伝子を組み込み(これがキムリア)、患者さんの体内に戻すということで、これまでの薬物療法の概念とは全く違う治療法だと言うことです。

患者さんの側から見ますと、治療の説明を医師から受けてから、キムリアの投与が完了するまで2ヶ月~2.5ヶ月程度という極めて短期間で済むことになります。

患者さんへの説明用パンフレットにある手順の図を以下に示します。

ここで、アフェレーシスとは、血液から目的の成分を分離し「抽出する」ことを意味し、この場合は患者の血液中からT細胞だけを分離・抽出することになります。

出来上がったT細胞を患者さんに戻す時の細胞数は次の様になります。

ここで、CARとは抗CD19キメラ抗原受容体(Chimera Antigen Receptor)のことだそうです。

これだけの数に加工したT細胞を増やすのに5~6週間が必要なのだそうです。

 キムリアの価格の妥当性

今回の保健薬価の算定で、キムリアの価格は33493407となりました。日本国内では最も高額なクスリとなりましたが、めでたく保険適用となりましたので、患者さん本人が全額を負担する必要はなくなりました。

とはいうものの、現役世代であれば自己負担率が3割ですから、約1000万円は負担しなければなりません。これは依然として払いきれる額ではありませんよね。

しかし、ご安心ください、高額な医療や薬に関して日本には高額療養費制度というものがありまして、収入に比例して、患者の負担の上限を月ごとに定める制度で、例えば70歳未満で年収が約370万円から770万円の患者さんがキムリアを使った場合に、自己負担額は約40万円で済む計算になります。

© FNN.jpプライムオンラインより

しかし、それにしても尋常な金額ではないように思いましたので、その内訳を調べてみました。

ノバルティス社によるキムリアの原価は・・・

  1. 製造原価が約2363万円
  2. 営業利益が約414万円
  3. 流通経費が約68万円で
  4. 消費税約228万円   (保険償還価格の算定資料(中医協)より

ということだそうで、これに有用性加算(従来の治療法に比較して優れた有効性・安全性が示されたことに対する加算)などが加わって約3349万円となったそうです。

通常の医薬品であれば、処方せんを作れば、あとは既製品を患者さんに渡すだけで済みます。しかし、キムリアに関しては、病院で採血し、T細胞を分離し、輸送用に凍結・梱包し、米国のノバルティスの研究所に輸送し、返送されてきたキムリアを投与出来るよう準備して、患者さんに投与する・・・という医療機関にとてつもない手間と労力を要求します。さらに、ノバルティス社では、大量生産やストックが効かず、患者ごとの都度生産となり、オーダーメード用の人員確保などが重くのしかかる製品ですので、トータルすると、約3349万円でも赤字ギリギリという感じになるのだそうです。

ちなみに、米国での価格は5000万円を超えるそうです。ただし、成功報酬で、効果が無かった場合は少額(といっても数百万円)で済むそうです。

 何故1回投与で良いのか?

これが、キムリアの最大の特徴なのですが、抗CD19キメラ抗原受容体の遺伝子を移入されたT細胞が、患者さんの体内に戻ると、早速白血病B細胞を発見し、攻撃します。

T細胞の特徴として、攻撃がうまくいくと、別の関連する免疫細胞に白血病B細胞の特徴を知らせて回るようになり、自然と、白血病B細胞を攻撃する免疫細胞の数が増えるのです。

さらに、キムリアT細胞によって破壊された白血病B細胞はマクロファージなどによって貪食され、処分されるのですが、貪食したマクロファージ白血病B細胞の新たな特徴を仲間の免疫細胞に伝え、新たな免疫反応が起こり・・・と、キムリアT細胞が攻撃を始めると、連鎖反応的に患者さんの免疫システムが白血病B細胞を攻撃するようになり、患者さんの免疫システムが白血病B細胞を完全に覚えてしまうことで、効果が持続するのだそうです。

この様なメカニズムによって、1回投与にもかかわらず、日米欧の多国籍国際臨床試験での有効率は80%を越え、再発も殆ど見られていないという注目すべき成績を収めています。(標準的な治療法での有効率はせいぜい60%程度と言われています。)

 キムリアの副作用

キムリアは基本的に自分の細胞であり、抗がん効果は自分の免疫システムが行うので、通常の抗がん剤のような副作用(脱毛や嘔吐など)は起こりません。

しかし、キムリアの投与によって、短時間で大量の白血病B細胞が破壊されるため、破壊された白血病B細胞から相当量のサイトカイン(IL-6やIFN、TNFなど)が体内に放出され、サイトカイン放出症候群神経系の有害事象などの副作用が起こります。

これらの副作用は重症化することがありますので、キムリアの投与はこの様な副作用に即時に対応できる医療機関でしか使用できない様になっています。

 

この様な、画期的な新しい治療法が承認・発売されたことによって、医療全体が新たなステージに進んだと言っても過言ではないでしょう。

デハデハ

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