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免疫(Immunity)とはー液性免疫

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皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。

今日は、先日お話しした「免疫(Immunity)とはー基礎編」の続きで、液性免疫(humoral immunity)について考えてみたいと思います。

と、その前に、先日本屋さんでなにげなく本を眺めていたら、面白そうなコミックをみつけました。

全5巻のコミック(漫画)なのですが、血液中の細胞(白血球、赤血球、血小板)についての特徴や働きが解りやすく、コミカルに描かれています。ご参考までに・・・。


✨ 始まりはいつもパトロール隊

ASKAの「始まりはいつも雨& SAY YES」みたいなタイトルですが、免疫活動の始まりはいつでもパトロール隊(マクロファージと好中球とNK細胞)から始まります。

パトロール隊のマクロファージ(macrophage)か好中球(neutrophil)が異物(細菌や不良細胞)に遭遇すると、まず、異物発見の情報を樹状細胞(dendritic cell)に知らせます。これがいつも始まりです。

知らせを受け取った樹状細胞は、T細胞の司令塔であるヘルパーT細胞(Th細胞)に異物の特徴(抗原:antigen)を知らせると同時に、攻撃準備を開始するよう刺激を送ります。これを抗原提示(antigen presentation)と言います。

ここからが、液性免疫の始まりですが、抗原提示を受けたTh細胞はサイトカインを放出して、機動隊であるキラーT細胞とB細胞を活性化(activation)させます。

✨ B細胞と抗体

液性免疫の主役はB細胞と、それが作り出す抗体(antibody)というタンパク質です。

以前の「免疫(Immunity)とはー基礎編」でお話ししたように、B細胞は自分が直接的に異物を攻撃することはありませんが、B細胞は弓矢部隊に例えられますので、活性化すると矢に相当する抗体を四方八方に放出します。

B細胞の顕微鏡写真

このB細胞の特徴は、抗原の特徴を記憶することが出来ることですが、1個のB細胞が記憶できる抗原は1種類だけです。例えば、大腸菌を検知する抗体を作るB細胞は、大腸菌専門ですので、結核菌やインフルエンザ・ウイルスに対する抗体は作れません。結核菌やインフルエンザ・ウイルスに対する抗体の産生は、それ専門の別のB細胞が担当します。

最初に異物を発見した時には、まだその異物の抗原を作り出すB細胞がありませんから、まず、専門のB細胞を作る(これを分化[differentiation]と言います)ところから始めねばなりません。

ですので、それまで感染したことのない病原菌に感染すると、その病原菌を標的とするB細胞が出来上がるまでにかなり時間が掛かってしまい、感染症が治るまでに時間がかかり、重症化することがあります。

しかし、2度目の感染の時には、すでにその抗原を記憶しているB細胞がいますので、短時間で抗体を作りだして攻撃を開始しますので、感染症は軽症あるいは無症状で済みます。

この様に、B細胞が異物の抗原を記憶しておくことを免疫記憶(immune memory)と言い、この様な後天的に得た免疫反応のことを獲得免疫(acquired immunity)と言います。

この免疫記憶を利用して、獲得免疫を事前に用意しておく技術が「ワクチン(vaccine)」なのです。(ワクチンの詳細は、日を改めて説明します。)

免疫による異物攻撃が一段落すると、活躍したB細胞の一部が今回の抗原を記憶しておくメモリー細胞に変身し、次回の攻撃に備えます。

✒ 抗体の構造と種類

では、B細胞が作り出す抗体とはどの様なものでしょうか?

抗体はタンパク質の一種で、免疫グロブリン(immunoglobulin)と呼ばれていて、Igと略されています。ヒトの免疫グロブリンIgGIgAIgMIgDIgE5種類に分類され、その各々の分類をクラス(class)と呼びます。

免疫グロブリン(1分子)の基本構造を↓に示します。

この様に、抗体(免疫グロブリン)はローマ字のYの形をしており、青色系で示されている2本の重鎖(Heavy chain:H鎖)と緑色系で示されている2本の軽鎖(Light chain:L鎖)が各々S-S結合(ジスルフィド結合:disulfide binding)で繋がっています。

ここで、①はFab領域(Fab region)と呼ばれ、この先端部⑤のところが細菌や異物の抗原と結合(binding)します。②はFc領域(Fc region)と呼ばれ、このお尻部分にキラーT細胞やマクロファージなどの免疫細胞が結合します。③重鎖(H鎖)、④軽鎖(L鎖)。

①のFab領域は結合する抗原ごとに違っていて、可変領域(variable region)と呼ばれます。この様に、抗原ごとに違っていることを抗原特異的(antigen-specific)と言います。

②のFc領域は定常領域(constant region)と呼ばれ、免疫グロブリンの全てのクラスで共通しています。キラーT細胞などの免疫細胞はこのFc領域に結合することで、異物にたどり着くことが出来ます。

このFc領域のすごいところはここで、キラーT細胞などの免疫細胞は何千何万という抗原をいちいち覚えていなくても、このFC領域さえみつければ、抗原(異物)に辿りつける・・・ということです。なんと合理的なシステムなのでしょうか!!!👍

ヒトの免疫グロブリンのIgGIgAIgMIgDIgEは↓の様な形態を取っています。

● IgG: 免疫グロブリンの1分子からなり(Monomer)、ヒト免疫グロブリンの70%~75%を占めていて、分子量は約146,000~170,000。液性免疫の主役となっています。

● IgM: 免疫グロブリンの5分子からなり(Pentamer)、ヒト免疫グロブリンの約10%を占めています。分子量は970,000で、病原体に対して最初に産生される抗体で、複数の抗原に結合できます。IgGが十分量に達するまでの初期免疫を司っています。

豆知識: IgMはお母さんの初乳に豊富に含まれています。お産で、「初乳を赤ちゃんに飲ませてください」と言われるのは、まだ免疫が十分に備わっていない赤ちゃんを病原体から守るために、お母さんのおっぱいに含まれているIgMが役立つからです。

 その一方で、無菌だった体内から出産で外界に出てきた赤ちゃんの最初の感染源は、何を隠そう、お母さんです。それだけに、IgMが豊富な初乳を飲ませてあげることが必要なのです。

● IgA: 免疫グロブリンの2分子からなり(Dimer)、ヒト免疫グロブリンの10%~15%を占めています。分子量は160,000で、主に粘膜上や腸管内に分泌されます。IgMと共に母乳の中にも含まれています。

● IgD: ヒト免疫グロブリンの1%以下を占める単量体(Monomer)で、主にB細胞表面に発現し、抗体産生の誘導に関与していると言われています。

● IgE: ヒト免疫グロブリンの0.001%以下と極微量しか存在しない単量体の抗体で、アレルギーが起こっていると量が増えます。薬物アレルギーなどが疑われる際にIgEを測るのはこのためです。

✒ 抗体の働き

抗体の働きは、該当する抗原に結合してFlagを立てることです。抗原と抗体が結合して凝集が起こると、キラーT細胞やマクロファージなどの免疫細胞に貪食(phagocytosis)されます ↓ 。このとき免疫細胞の目印となるのが、抗体のFc領域です。この様な抗体と免疫細胞の働きをオプソニン作用(opsonization)と言います。

その他の抗体の作用としては、抗血清(antiserum)と呼ばれている抗体の直接作用があります。サソリやまむしの毒などに抗体が結合すると、毒を中和(neutralization)してくれます。また、微生物や腸内にいるギョウ虫などに抗体が結合してその動きを止める作用もあります。

 

以上の様に、液性免疫の主役はB細胞が作り出す抗体(免疫グロブリン)ですが、これ以外にもサイトカイン(インターフェロンやインターロイキンなど)と呼ばれるタンパク質や補体(complement)などの因子も複雑に関与しています。

この様な複雑な免疫システムを素人にも解りやすく解説している参考書としてお勧めなのが↓です。

デハデハ



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