皆さんこんにちは、Partner of Medical Translatorsの津村です。
昨日(2020年8月4日)の午後7時に、大阪の吉村知事が会見を行い、「ウソのようなホントの話し」として・・・ポビドンヨードを含んだうがい薬で新型コロナウイルスの陽性率が低下した・・・と発表しました。
発表内容を検討したところ、今回の試験のデザインに多少の疑問が起こりましたので、考察してみました。
もくじ
試験の概要
大阪府と大阪市、府立病院機構大阪はびきの医療センター(大阪府羽曳野市)は4日、新型コロナウイルスの感染者に殺ウイルス効果のあるうがい薬でうがいをしてもらったところ、唾液(だえき)の検査で陽性となる割合が減ったとの研究結果を発表しました(詳しくはこちら)。
本試験の問題点
この発表を受けまして、試験デザインと結果の概要を確認してみました(詳しくはこちら)。
試験デザインの概略は以下のとおりです。
軽症ないしは無症状のホテル宿泊療養中のCOVID-19 患者を対象(府健康医療部のご協力)に、ポビドンヨードうがい液で1日4回、4日間うがいをしてもらった25例(うがい群)と何もせずに経過観察を4日間行った16例(対照群)を比較しました。
また、試験結果として、以下の図を提示しています。
図1 ポビドンヨードうがい試験の結果
(出典:ttp://www.pref.osaka.lg.jp/attach/39143/00000000/povidon.pdf)
図で、左側の棒グラフはだ液検査での陽性率の推移を示してあり、右側の帯グラフは、PCR検査でのDay 4の陽性率を示しています。
いずれもパーセンテージ(%)表示なので、実際の検査例数が解りません。また、左側のだ液検査での陽性率を見ますと、Day 2で対照群が増加していることが解ります。
- 問題点1
うがい群は25例ですが、対照群は16例でした。この理由を大阪はびきの医療センターの松山医師は、「計画では対照群も25例を登録する予定でしたが、新型コロナウイルス感染の入院者が急増したため、16例に留まりました」とテレビで説明していました。
もちろん、詳細は解りませんが、もし同意の取れた患者を1例ずつうがい群と対照群のどちらかに無作為(ランダム)に割付けていたならば、どちらの群も25例には達していなかったはずです。
推察するに、まず、ポビドンヨードうがい液でうがいする25例を優先的に登録し、その後に対照群を登録したために、対照群だけが16例になった・・・ということでしょう。
つまり、本試験は 無作為割付けデザインではなかった ということです。
とすると、患者の選択に偏りが生じている可能性があり、例えば、比較的軽症(ウイルスが消失しやすい)で試験実施者の言うことを素直に遵守してくれそうな患者をうがい群として先に選び、比較的症状が重く(ウイルスが消失しにくい)、試験実施者の言うことをあまり聞かなそうな患者を対照群に選んだ・・・と疑われても仕方がないデザインであった可能性があります。
- 問題点2
図1を見ますと、Day 2で対照群が増加していますが、この理由を大阪はびきの医療センターの松山医師は、「試験施設へ入院してもらった初日(Day 1)は昼食時で、昼食を摂った後に検査をしました。2日目からは、起床後の食事前の検査値です。」と言っていて、食事を摂ると、食事の影響で喉のウイルス量が一時的に減るのだそうです。
こちらも、詳細は解りませんが、試験施設へ入院した初日(Day1)の 起床後のデータはない ことになり、全ての患者がだ液検査及びPCR検査でウイルスが確認出来ていたわけではないことになります。
つまり、本試験では ベースラインでの陽性率が100%ではなかった ことになります。
さらに、 試験開始前の陽性率がうがい群と対照群で同じであったかどうか解らない 状態で試験を開始していたことになります。
とすると、図1の成績ではうがい群の陽性率が常に対照群を下回っていますが、この差は、元々ベースライン(試験開始時)にうがい群の方が陽性率が低かったため・・・という可能性が否定できません。
- 問題点3
図1を見ますと、データ数値が全てパーセンテージ(%)で、本来の患者数が解りません。
大阪はびきの医療センターの松山医師は、うがい群が25例、対照群が16例と言っていますが、その例数と図1のパーセンテージ(%)から、陽性者の例数を逆算しますと・・・
- うがい群(n=25)
うがい群 | 陽性率 | 陽性例 |
Day 1 | 56.00% | 14.00 |
Day 2 | 48.00% | 12.00 |
Day 3 | 36.00% | 9.00 |
Day 4 | 9.50% | 2.375 |
となって、Day 1~Day 3は25例だった様ですが、Day 4は端数となっていて25例ではなかったことが解ります。9.50%で整数に近くなる患者数を計算してみますと、21例となり、Day 4では患者が4例減っていたと思われます。
- 対照群(n=16)
対照群 | 陽性率 | 陽性例 |
Day 1 | 68.80% | 11.01 |
Day 2 | 75.00% | 12.00 |
Day 3 | 56.30% | 9.01 |
Day 4 | 40.00% | 6.40 |
同様に、対照群で計算してみても、Day 1~Day 3は16例だった様ですが、Day 4は端数となっていて16例ではなかったことが解ります。40.00%で整数に近くなる患者数を計算してみますと、15例となり、Day 4では患者が1例減っていたと思われます。
通常の試験報告であれば、これらの5例(うがい群:4例、対照群:1例)の減少に関しては、その詳細と、解析に含めなかった理由を明記していますが、今回の発表ではこのDay 4での例数の減少について、何のコメントもありませんでした。
うがった見方をすれば、Day 4での例数の減少を隠蔽するために、図1のデータ数値を全てパーセンテージ(%)で示した・・・と疑われても仕方のない状況です。
結果を統計解析してみた
以上の様に、今回の試験はデザイン的にも発表の内容的にも懐疑的な部分が多く、一概に信用しがたいものと言えそうです。が、それでも、図1の結果を信頼して統計学的検定を行ってみました。
Day 4での症例数を、うがい群21例、対照群15例とし、陽性率をうがい群9.5%(2例)、対照群40.0%(6例)すると、Day 4での2×2分割表は次の様になります。
Day 4 | 陽性例 | 陰性例 | 合 計 |
うがい群 | 2 | 19 | 21 |
対照群 | 6 | 9 | 15 |
合 計 | 8 | 28 | 36 |
この分割表をフィッシャーの直接確率法(両側α=0.05)で検定してみますと、P値が0.0461となり、有意水準α=0.05で、 統計学的に有意 という結果になります。
また、うがい群の陽性率(9.5%)と対照群の陽性率(40.0%)の左(-30.5%)の95%信頼区間を求めますと・・・
95% C.I. : -58.28%~-2.72%
となり、真の両群の陽性率の差(うがい群-対照群)は、95%の確率で -58.28%~-2.72% の範囲内にあることが解りました。
ところが疑わしい
発表どおりであれば、「うがいをする」としない場合に比べて、統計学的に有意に陽性率が低下し、だ液内の新型コロナウイルスが消失した患者が増えたことになります。
しかし、上述の様に、Day 4では5例(うがい群:4例、対照群:1例)の患者が解析から除外されている様で、その除外した理由は説明されていません。
仮に、この5例を解析に加えると、特にうがい群の4例中に1例以上陽性例が居たならば、検定結果は有意とならない結果になります。
例えば、うがい群の4例中に1例陽性者がいた場合(対照群の1例は陰性)、2×2分割表は次の様になります。
Day 4 | 陽性 | 陰性 | 合 計 |
うがい群 | 3 | 22 | 25 |
対照群 | 6 | 10 | 16 |
合 計 | 9 | 32 | 41 |
この分割表をフィッシャーの直接確率法(両側α=0.05)で検定すると、P値が0.1185となって、有意差が消失してしまいます。
以上の事から、今回の試験においてDay 4での5例(うがい群:4例、対照群:1例)の除外例は極めて重要な意味を持っていることになり、是非ともこの5例の詳細を公表してもらいたいと思います。
今回の結果の解釈
今回の試験結果は、あくまで、うがいによって口から喉にかけての新型コロナウイルスの数がどう変化したか・・・と言うことを調べたものですので、 ポビドンヨードうがい液で新型コロナ感染が予防できる と言う意味ではありません。
また、今回の試験対象となった患者さん達は 軽症ないしは無症状のホテル宿泊療養中のCOVID-19 患者 ですので、少なくともPCR検査等で新型コロナウイルス感染が確認された人達です。
従いまして、現在感染が確認されていない陰性の人達がポビドンヨードうがい液でうがいをしたからと言って、新型コロナに感染しない訳ではありませんので、注意してください。感染予防の効果を証明したのではありません。
また、ポビドンヨードうがい液には医薬品成分であるヨード(ヨウ素)が含まれていますので、使用法を誤ると副作用が出ます。
代表的な副作用として、ヨードを過剰に摂取すると、甲状腺ホルモンを過剰に分泌するために、甲状腺が発達しすぎて甲状腺肥大や甲状腺腫が生じ、甲状腺機能低下症が引き起こされてしまいます。症状としては、「前頸部の腫れ」、「元気がない」、「疲れやすい」、「まぶた(眼瞼)が腫れぼったい」、「寒がり」、「体重増加」、「動作がおそい」、「いつも眠たい」、「物覚えが悪い」、「便秘」、 「かすれ声」などが報告されています。
さらに、今回の結果からは、ポビドンヨードが有効なのか、「うがい」という行為が有効なのかの区別がつきません。
ヨードはある意味危険な物質なので、例えば、「水道水でうがいしたとき」とか「通常の洗口液(マウスウオッシュ)で口をすすいだとき」などの検討も行っていくべきでしょう。
とにかく、今回の結果が真実であることを願っています。
デハデハ