皆さんこんにちは、Partner of Medical Translatorsの津村です。

本日(2020年7月31日)新型コロナの一日の感染者数が、東京で460人前後といよいと400人台に突入してしまいました。

日々の通勤電車の混み具合も新型コロナの前の状態に戻りつつありますし、GOTOキャンペーンなどで県をまたいでの移動も盛んになっていますので、新型コロナの感染拡大のペースは確実に人の移動の増加に比例していますね。

前回はワクチンの基礎編をお話ししましたが(詳しくはこちら)、今回は初期のDNA/mRNAワクチンについてのお話ししましょう。

新型コロナワクチンのラインナップ

2020年7月20日のLANCETに、英国オックスフォード大学とアストラゼネカが開発している新型コロナウイルスのワクチンの初の臨床試験の結果が掲載されました。

試験には健康な成人1077人が参加し、「ChAdOx1 nCoV-19」という開発中のワクチン(AZD1222:DNAワクチン)と髄膜炎ワクチン(発売されている既存のワクチン)のいずれかが接種される比較試験でした。

その結果、ChAdOx1 nCoV-19の安全性が証明されたと共に、強力な免疫反応が誘発されることが示され、被験者の免疫系からは抗体とT細胞が生み出され*、観察された副作用も比較的穏やかだったそうです。

*:抗体が誘導されたことからメモリーB細胞が発現していることが示され、Covid-19に反応するT細胞が誘導されたことからメモリーT細胞が発現していることも証明されました。

現在はさらに大人数を対象としたPhase 2b/3の臨床試験を実施中で、開発の最終段階にあるそうです。

これと前後して、中国・武漢のカンシノ・バイオロジクス(CanSino Biologics)は中国政府と共同で、「Ad5-nCoV」という別のワクチン(mRNAワクチン)を接種する初の臨床試験を実施し、その結果を7月のLANCETに掲載しました。

こちらも、接種した健康な成人508人の内、96%以上が抗体を生成(即ち、メモリーB細胞の発現)しており、90%以上にT細胞反応(即ち、メモリーT細胞の発現)があったということです。

現在は、もう一段階進んだPhase 2の臨床試験を実施中だそうです。

さらに、米国のバイオテクノロジー企業のModernaが、アメリカ国立衛生研究所と共同で開発を進めてきた新型コロナウイルスワクチン「mRNA-1273」というさらに別のワクチン(mRNAワクチン)を接種する初の臨床試験(Phase 1)を実施し、その結果を7月のNEJMに掲載しました。

日本でも、大阪にあるバイオベンチャー(アンジェス:大阪大学の研究者が設立)がDNAワクチンの臨床試験を開始したと2020年6月末に発表しました。

2020年の夏はこの様に新型コロナに対するワクチンの臨床試験報告が溢れていましたが、DNAワクチンとかmRNAワクチンとか、聞き慣れないワクチンの名前が出てきています。

これらがどんなワクチンなのかを理解するにはまず、DNAとかmRNAが何なのか?また、それらを利用した初期のDNA/mRNAワクチンを知っておく必要があります。

DNAは遺伝物質

DNA(deoxyribonucleic acid:デオキシリボ核酸)は遺伝子を構成する物質で、親から子に遺伝していく遺伝物質(genetic material)です。

DNAって何?

DNAは細胞の中心にある核の中にしまわれています(図1参照)。

図1 細胞の構造(DNAは核の中にある)

核は核膜と言われる膜(実は穴だらけ)で覆われていてDNAはその中でモズクの様な糸状になって漂っています。核の中に漂っているDNAは「クロマチン(chromatin)」と呼ばれています(図2参照)。

図2 核の構造(DNAはクロマチンと呼ばれる)

通常はモズクの様に漂っていて区別がつかないDNAですが、細胞が分裂する際には凝集して、染色体(chromosome)として確認出来るようになります。ヒトの染色体は、 22対の定染色体(autosomal chromosome)と、2対の性染色体(sex chromo-some:X染色体とY染色体)から成っています(図3参照)。ですので、人には24種類(女性は23種類)DNAがあることになります。

図3 DNAが凝集した染色体

(同じものが二つずつあって、一方が父親、他方が母親に由来)

DNAは、体内で合成されるタンパク質の設計図で、体内にある全ての細胞が同じDNAを持っています。

DNAでは、4種類の塩基:アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C) を使ってタンパク質の基となるアミノ酸#を合成する設計図を保存しています。

#:タンパク質は多数のアミノ酸が結合したもので、人間では20種類のアミノ酸からタンパク質が合成されます。アスパラギン酸とかグルタミンなどが代表的なアミノ酸です。

ひとつのアミノ酸は3つの塩基(これをコドンと呼びます)で表され、例えばグルタミンはCCA(シトシン・シトシン・アデニン)で表されます。

mRNAも遺伝子

DNAはヒトのタンパク質を合成するオリジナルの設計図(マスターピース)です。従って、細胞内で実際にタンパク質を合成する場合にマスターピースであるDNAを何度も使っていると、思わぬキズがついて突然変異を起こすおそれがあります。

そこで、あるタンパク質を合成する際には、まず、DNAの中の該当するタンパク質合成遺伝子をコピーした作業用設計図としてRNA(ribonucleic acid:リボ核酸)という遺伝子を作ります。このコピーされた作業用設計図であるRNAをメッセンジャーRNA(mRNA)と呼びます。これらのDNAからmRNAをコピーする作業は核の中で行われ、コピーを作り出す酵素を「RNA転写酵素」と言います。

作成されたmRNAは核膜の穴から出て、細胞質内にある小胞体(図1参照)に運ばれ、小胞体の上にあるリボソーム(Ribosome)によって、アミノ酸に翻訳$され、翻訳されたアミノ酸が繋がってペプチド(3次構造に組まれる前のタンパク質)となります。

$:mRNAのコドン(3つの塩基の組合わせ)に相当するアミノ酸を連れてくること。アミノ酸を連れてくるのもRNAの一種で、これをトランスファーRNA(tRNA)と言います。アミノ酸を載せたトラックのイメージです。

小胞体上でリボソームによって翻訳されたペプチドは、最後にゴルジ体(図1参照)に運ばれて、3次構造のタンパク質にくみ上げられます。完成したタンパク質は細胞外に放出(分泌)されていきます(図4)。

図4 DNA⇒mRNAからタンパク質が合成されるプロセス

では何故、病原体そのものではなく、タンパク質の設計図であるDNAやmRNAを使って、ワクチンが出来るのでしょうか?

ウイルスが感染するメカニズム

実は、DNAやmRNAを使ったワクチンはウイルス感染に対する場合にしか作成出来ず、細菌感染には応用出来ないのです。その理由は、ウイルスの構造にあります。

ウイルスの構造

コロナウイルスを例に挙げて、ウイルスの構造を見てみましょう。新型コロナウイルスの構造の模型を図5に示します。

図5 新型コロナウイルスの構造

(出典:https://threadreaderapp.com/thread/1252528571857305601.html)

ウイルスは、通常の細胞(図1参照)で言う核だけで出来ています。具体的には、エンベロープと言われるカプセルの中にウイルスの遺伝物質(DNAかmRNA)が入っているだけの単純な構造で、通常の細胞に見られる小胞体とかゴルジ体、ミトコンドリアなどはありません。ですので、通常の細胞やそれと同じ構造を持つ細菌(大腸菌やブドウ球菌など)の1/10~1/20程度の大きさで、例えるなら、細菌をボーリングの球とすると、ウイルスはビー玉くらいの大きさしかありません。

従いまして、大腸菌やブドウ球菌などの様に自分で増殖する(細胞分裂して数を増やす)ことが出来ず、ヒトなどの宿主の細胞に寄生して増殖します。具体的には、宿主の細胞に自分の遺伝物質(DNAかmRNA)を注入して、宿主細胞に自分のコピーを合成させて増殖していくのです。

寄生するためには、細胞にくっつく必要がありますので、ウイルスの表面(エンベロープの外側)にはスパイクと呼ばれる吸盤のようなパーツがあります(図5参照)。そのスパイクが宿主細胞にくっつくことで細胞膜に同化し、細胞内に侵入していきます。

ウイルスの種類は、このスパイクの構造と自分の遺伝物質(DNAかmRNA)の違いによって分類されます。遺伝物質がDNAのウイルスをDNAウイルスと呼び、mRNAの場合をmRNAウイルスと呼びます。ちなみに、新型コロナウイルスを含むコロナウイルスはmRNAウイルスに分類されます。

また、2020年2月に米国のテキサス大学と国立アレルギー・感染症研究所の研究チームが新型コロナウイルスのスパイクの立体構造を特定したと発表しました(図6)。

図6 新型コロナウイルスのスパイクの立体構造。上部の部分が細胞にくっつきます。

(出典:Science  13 Mar 2020:Vol. 367, Issue 6483, pp. 1260-1263)

 

ウイルスが細胞に寄生するプロセス

ウイルスが宿主細胞に寄生するプロセスの概略を図7に示します。

図7 ウイルスが宿主細胞に侵入して自分のコピーを作らせるプロセス

スパイクによって細胞内に侵入したウイルスは自分の遺伝物質(mRNAなど)を宿主細胞のDNAにすり込ませ、ウイルスとなるためのタンパク質と遺伝物質(mRNAなど)を複製させ、ウイルスとなって細胞膜を透過して細胞の外へ出ます(これをウイルスの出芽と言います。

&:mRNAウイルスの場合は、自分のmRNAを逆転写酵素(reverse transcriptase)という人間にはないウイルス独特の酵素によってDNAに変換して、宿主細胞のDNAに組み込みます。

この様に、寄生~増殖するウイルスのDNAやmRNAを使ってワクチンにしようと考えたのが、初期のDNAワクチンやmRNAワクチンでした。

初期のDNA/mRNAワクチン

初期のDNAワクチンやmRNAワクチンは、ウイルスのエンベロープに入っているDNAやmRNAをワクチンとして直接ヒトに接種するものでした。

接種されたウイルスmRNAなどは外来異物ですので、樹状細胞などに捕食され、その情報に従ってT細胞が活性化し、B細胞はウイルスmRNAに結合出来る抗体を作るようになります。しかし、抗体というものは細胞の中やウイルスの中には入っていけませんので、せっかく誘発された抗ウイルスmRNA抗体が標的のウイルスmRNAに直接結合するチャンスはめったにありません。

従いまして、侵入してきた新型コロナウイルスに対してこの抗ウイルスmRNA抗体が結合し、免疫反応が起こることは理論的には極めて稀なことなのですが、それでも、このmRNAワクチンなどを接種することで、自然感染した患者の約6割の強さの免疫反応を誘発することが出来たのです。

いったいどうなっているでしょうか?

実は1990年の末から2000年の初頭に、遺伝物質であるDNAやmRNA自体が、免疫誘発物質として働き、自然免疫であるマクロファージや樹状細胞などのパトロール隊が、DNAやmRNAに刺激されて免疫活動を開始することが解りました。

新型コロナウイルスなどの病原体それ自体を接種する訳ではないので、副反応(接種株による感染)が大幅に改善されるなどの利点があるため、これまでにトリインフルエンザ、エボラ熱、C型肝炎、HIV、乳ガン、肺ガン、前立腺がんなどのDNAワクチン等が多く開発されてきましたが、ヒトに適用できるDNAワクチンやmRNAワクチンはどの国でも未だ承認を得ていません。

その主な理由は、誘発される免疫の能力や種類が安定せず、信頼できるワクチンとしては機能しないと判断されているからです。

そこで、新型コロナ用のDNAワクチンなどでは、さらに遺伝子組換え技術を応用した新しいワクチンが考案されました。

これにつきましては、次回、詳しく紹介します。

デハデハ

 

 

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