皆さんこんにちは、Partner of Medical Translatorsの津村です。

昨日アビガンの話をしましたが、同じく新型コロナの治療薬として有望視されているレムデシビル(Remdesivir)の国際研究チームによる、新型コロナの重症患者を対象とした臨床試験成績が4月10日、NEJMに発表されました。

今日はこの話題を中心に、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の治療薬の第2弾としてレムデシビルについてお話しします。

レムデシビル(Remdesivir)とは?

レムデシビルは、Gilead Sciences社(米国カリフォルニア州)がエボラ出血熱の治療薬として開発した静脈投与する注射薬ですが、まだ医薬品として承認を与えた国や地域はありません。現在の所、米国内で開発が進められているとのことです。

2013年から2016年に西アフリカで流行したエボラ出血熱の対策として臨床開発が急ピッチで進められました。しかし、コンゴの保健局によると、2019年8月の時点でモノクローナル抗体治療(mAb114やREGN-EB3など)の方が有意に効果が強かったため、承認には至りませんでした。

レムデシビルの化学構造↓

 出典:Wikipediaより

 

レムデシビルの作用機序

レムデシビルは低分子(分子量:602.58 [分子量が1万以下の化合物を低分子low molecularと呼びます])の人工化合物で、ウイルスのRNAポリメラーゼ(RNA polymerase)に結合してRNAの複製を混乱させ*、ウイルスの増殖を防ぐことが出来る(抗ウイルス作用)のだそうです。

*:詳細は不明ですが、ヒト細胞のDNAに潜り込んだウイルスのDNAの部分にRNAポリメラーゼがうまく結合出来なくなり、その結果、ウイルスRNAの増産が出来なくなるらしいです。

注:RNAポリメラーゼの正式名称は、DNA依存性RNAポリメラーゼ(DNA dependent RNA polymerase)と言いまして、鋳型となるDNAからそれに対応するmRNA(メッセンジャーRNA)を合成する酵素です。ヒトの細胞内にもRNAポリメラーゼはありますが、ウイルスのものとは違った構造をしています。

その後の研究で、エボラウイルスだけではなく、コロナウイルスやその他のウイルスにも抗ウイルス作用が発揮されることが解りました。

アビガンと同様に、レムデシビルもプロドラッグ(prodrug)で、レムデシビルそれ自体には抗ウイルス作用はないのですが、細胞内で代謝を受けて活性型GS-441524に変化します。このGS-441524がウイルスのRNAポリメラーゼに結合して抗ウイルス作用を発揮するのだそうです。

WHOが「効果が望まれる唯一の薬」と発言

2020年2月に中国を視察した世界保健機関(WHO)の担当者が、「効果が望まれる唯一の薬」と発言し、一躍注目を集めることになりました。

 レムデシビル:静注用注射薬

 

国際共同チームによる臨床試験

今回報告のあった国際共同チームは、米国、欧州、カナダ、そして日本が参加し、日本からは国立国際医療研究センターの大曲医師(センター長)が加わっています。

新型コロナの重症患者53例の内、9例が日本から登録されました。ここで重症とは、新型コロナウイルス陽性が確認されて入院し、酸素吸入や人工呼吸などのサポートを受けていても酸素飽和度(SpO2)が94%以下**の患者を意味します。

**:酸素を身体中に運ぶ赤血球中のヘモグロビン(Hb)の内の何パーセントが肺で酸素を受け取ったかの指標。正常値の下限が94%ですので、それ以下と言うことは、身体全体が酸素不足になっている状態。

この新型コロナ重症患者にレムデシビルを人道的(compassionate-use basis)に投与するデザインの臨床試験でした。

ここでcompassionate-useは通常、「例外的使用」と訳されますが、レムデシビルはまだ未承認のクスリなので全てが例外的使用になります。このcompassionate-useの本来の意味は「人道的使用、基本的に生命に関わる疾患や身体障害を引き起こすおそれのある疾患を有する患者の救済を目的として、代替療法がない等の限定的状況において未承認薬の使用を認める制度(日本薬学会)」ということですので、レムデシビルが人道的見地から投与された・・・と言うことです。

公表された論文の要旨

以上のレムデシビルの背景情報を踏まえた上で、実際の公表論文(論文はこちら)をAbstractを中心に解説しつつ、英文和訳の練習をしてみましょう。

論文タイトル

まずは論文のタイトルを和訳してみましょう。英文は・・・

Compassionate Use of Remdesivir for Patients with Severe Covid-19

ここで、compassionate useは上述の様に「人道的使用」と訳しましょう(通常は「例外的使用」と訳されます)。Severe Covid-19ですから「重症の新型コロナ感染症」になったpatients=患者。forは「~のために」と言うことで治療法を表す前置詞で、「治療するモノ+for+治療されるモノ」という形になります。従いまして、このタイトルを直訳すると・・・

重症の新型コロナ感染症患者の治療としてのレムデシビルの人道的使用

直訳するとこの様に「の」重なりの文になってしまいますので、さらに自然な日本文になるようアレンジしてみましょう。例えば・・・

重症新型コロナ感染患者に対するレムデシビルの人道的使用

こんな感じで如何でしょうか。

BackgroundとMethods

次に、序論にあたる background=背景 を見てみましょう。英文は・・・

Remdesivir, a nucleotide analogue prodrug that inhibits viral RNA polymerases, has shown in vitro activity against SARS-CoV-2.

まずは英文の文型を理解しましょう。a nucleotide analogue prodrug that inhibits viral RNA polymerases(ウイルスRNAポリメラーゼを阻害するヌクレオチド類似体製品)は「,(カンマ)」で区切られていますから、挿入された説明文であることが解ります。説明しているのはもちろんRemdesivirについてですよね。

ですので、この英文のメインパートは;

Remdesivir has shown in vitro activity against SARS-CoV-2.

となります。ここで、この文の文型はS+V+O(第3文型)であることが解り、また、動詞Vはhas shownと現在完了形ですから、完了+継続の意味で「すでに示されている」となります。目的語Oは in vitro activity=in vitro活性 となります(in vitroは和訳しなくてもOK)。

レムデシビルは、SARS-CoV-2に対してin vitro活性を(既に)示している。

さらに、主語Sは物質ですのでshown(原形show=示す、見せる)という(意志を持った)動作を行う事はありません。従って、この文は無生物主語(無生物があたかも意思を持って何かをする)構文と考えられますので、「Sによって、OがVする」的な表現に変えますと・・・

レムデシビルによるSARS-CoV-2に対するin vitro活性が(既に)示されている。

となります。

ここで気になりますのが、タイトルでは新型コロナをCovid-19と表現していますが、BackgroundではSARS-CoV-2となっています。SARS(重症急性呼吸器症候群:severe acute respiratory syndrome)??? と思われたのではないでしょうか。

これにつきましては、次の様な経緯があります。

  • 2020年2月11日、WHOは新型コロナウイルス感染症の正式名称を「COVID-19」とすると発表した。コロナウイルス感染症と感染者が報告された2019年を組み合わせたもの。
  • 国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses:ICTV)は2020年2月7日、SARS(重症急性呼吸器症候群)を引き起こすウイルス(SARS-CoV)の姉妹種であるとしてウイルス名について、「SARS-CoV-2」と名付けた。

ちょっとややこしいですが、新型コロナに感染した時の病名が「COVID-19」(WHO発表)で、感染を引きおこした新型コロナウイルスの名称が「SARS-CoV-2」(ICTV発表)となっています。

これについては、METHODSの項に次の様な説明があります。

We provided remdesivir on a compassionate-use basis to patients hospitalized with Covid-19, the illness caused by infection with SARS-CoV-2.

ここで、to patients hospitalized with Covid-19(Covid-19で入院となった患者)では入院患者さんの病名について話していますから「COVID-19」としています。そして、このCOVID-19の説明として、the illness caused by infection with SARS-CoV-2(SARS-CoV-2による感染が原因となった疾患)が続いており、このSARS-CoV-2は病原体である新型コロナウイルスの名称であることが理解できます。

また、compassionate-use basisですが、compassionate-useは上述の「人道的使用」となります。では、次のbasisをどう訳せば良いでしょうか?   basisは基礎とか原理、根拠などの意味がありますので compassionate-use(人道的使用)に基づいた=人道的使用方式 と言った感じになります。

さらに、英文としては珍しく We~ から始まっていますので、ここはしっかりと「我々は~」と訳しましょう。以上を踏まえて和訳すると・・・

我々は、Covid-19(SARS-CoV-2による感染が原因となった疾患)で入院となった患者に、人道的使用方式で、レムデシビルを投与(提供)した。

となります。

投与方法

今回の臨床試験で行ったレムデシビルの投与方法について英文では次の様に説明しています;

Patients received a 10-day course of remdesivir, consisting of 200 mg administered intravenously on day 1, followed by 100 mg daily for the remaining 9 days of treatment.

a 10-day course of remdesivirとありますので、レムデシビルの10日間投与を1コースとしている様です。さらに詳しい説明があり、200 mg administered intravenously on day 1とあり、初日(day 1)にまず200 mgを静注し、followed by 100 mg daily for the remaining 9 days=続いて1日100 mgを残りの9日間 静注していました。

RESULTS

61例中データが揃っている53例が解析対象となり、米国からの22例、欧州及びカナダからの22例、そして日本からの9例の患者が解析されました。ベースライン時では30例(57%)が人工呼吸器(mechanical ventilation)を装着し、4例(8%)がECMO(膜型人工肺:extracorporeal membrane oxygenation)を装着していました。

During a median follow-up of 18 days, 36 patients (68%) had an improvement in oxygen-support class, including 17 of 30 patients (57%) receiving mechanical ventilation who were extubated.

ここで難解なのがoxygen-support classです。辞書を引いてもこの様な語句は出てきませんので、和訳を独自に考える必要があります。

まず、oxygen-supportを直訳すると「酸素を支援する/補助する」と言うことですから、ここからイメージして「(外部からの)酸素供給」としましょう。classは「分類、等級、集合」と言う意味からイメージして「レベル」あたりでしょうか。

extubated(原形extubate)は「~から抜管する」ですから、 人工呼吸器などで気道に挿入していた管(挿管と言います)を抜いた=自力で呼吸出来る様になった と言うことです。

以上の事から、和訳文は・・・

中央値18日間のフォローアップの期間中に、36例(68%)の患者が酸素供給レベルで改善を示し、これには人工呼吸器を装着していた30例中の17例(57%)での抜管が含まれる。

というかなりすごい効果を示していました。

しかし、対象が重症者ですので、死亡例も出ています。

A total of 25 patients (47%) were discharged, and 7 patients (13%) died; mortality was 18% (6 of 34) among patients receiving invasive ventilation and 5% (1 of 19) among those not receiving invasive ventilation.

ここで、discharged(原形discharge)は退院、mortalityは死亡数、死亡率、invasive ventilationは侵襲的補助換気(挿管した人工呼吸など)、また、「;(セミコロン)」は言い換え(追加説明)の記号ですから「即ち、~」などと訳しましょう。

以上の事から和訳文は・・・

合計で25例(47%)の患者が退院となり、7例(13%)の患者が死亡した。即ち、侵襲的補助換気を受けていた患者群での死亡率が18%(34例中6例)、侵襲的補助換気を受けていなかった患者群での死亡率が5%(19例中1例)であった。

死亡者も出ていますが、この成績は注目に値すると思いませんか!

以上の結果の詳細が図にまとめられています↓。

(オリジナル論文より引用)Ambient air=外気、室内空気:Category on ordinal scale=酸素供給レベルの分類(数値が大きいほど重度)

SAFETY

効果の強いクスリは、副作用等もそれなりに強く出ます。

レムデシビルに関する安全性の英文記述は・・・

A total of 12 patients (23%) had serious adverse events.

12例(23%)の患者で、重篤な有害事象が認められた。

と述べられています。

この文でのA total ofは、英文の文語では「文の先頭に数字をもってこない」というルールがありますので、それを避けるためにA total ofを先頭に持ってきているので、訳す必要はありません。

高頻度に認められた重篤な有害事象としまして・・・

serious adverse events — multiple organ-dysfunction syndrome, septic shock, acute kidney injury, and hypotension — were reported in patients who were receiving invasive ventilation at baseline.

重篤な有害事象-多臓器不全症候群、敗血症性ショック、急性腎障害、血圧低下-が、ベースライン時に侵襲的補助換気を受けていた患者で報告された。

となっています。しかし、患者さんの状況を考えますと、必ずしもレムデシビルが原因・・・とは言いがたい様ですが。

まとめ

以上、レムデシビルに関する最新論文の内容を紹介しましたが、この臨床試験はあくまでcompassionate-useという特殊な状況で行われており、比較対照群や無作為割付けなど、客観的評価に必要なデザインとなっていませんので、この成績をもってレムデシビルの有効性を論じるのは難しいです。

ただし、製造メーカーであるGilead社はさらに複数の大規模臨床試験(1本は中等度の入院患者1600例を対象、もう1本は重度の入院患者2400例を対象)を実施していますので、その結果が待たれるところです。

 

デハデハ

 

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