皆さんこんにちは、Partner of Medical Translatorsの津村です。

私の住んでいる千葉県市原市も先々週1例目の新型コロナウィルス肺炎の入院患者が出まして、それに呼応する様に4月7日(火)、「緊急事態宣言」が出ました。それ以降、町中の人影がかなり減ってきています。

さて、4月7日(火)に安部首相は緊急事態宣言を発表すると同時に、「緊急経済対策」も閣議決定しました。

その経済対策の中に、治療薬として新型コロナウイルスへの効果が期待される抗インフルエンザ薬「アビガン」の増産をメーカー(富士フイルム富山化学(株))に依頼しています。

今日は、この「アビガン」を中心に、新型コロナウイルスの治療薬候補についてかんがえてみましょう。

新型コロナウィルスは何故怖い?

コロナウイルスには、ヒトに感染して「風邪」を引きおこす4種類のウイルス(私たちが罹る風邪の約30%並びにインフルエンザはこれらのウイルスによるもの)と動物から感染する重症肺炎ウイルス2種類(SARSとMERSの原因)がすでに知られていました。

今回のコロナウィルス(COVID-19)は、上記の6種類のどれとも異なる、未知の7番目のコロナウイルスであるため、「新型コロナウィルス」と呼ばれています。では、7種類もあるコロナウイルスの中で、何故COVID-19(以下、新型コロナ)だけがこれほどに恐れられるのでしょうか?

それは・・・

有効な治療薬やワクチン(つまり、治療法)がない

からです。

2020年4月14日現在で、世界で一日あたり新たにCOVID-19に感染した人が約7万人、死亡した人が約5400人となっています(死亡率約7.7%)。

一方、同じくコロナウイルスが原因のインフルエンザですが、こちらはワクチンや治療薬が既にありますので、その死亡率は世界で0.1%程度です。また、感染の脅威度も格段の違いがあり、「うちの娘がインフルエンザになっちゃって・・・」と世間話のレベルでしかありません。

つまり、新型コロナが恐れられている最大の原因は、有効な治療法(治療薬やワクチン)がない・・・ということなのです。

新型コロナウィルス(COVID-19)による肺炎が怖い!

インフルエンザの場合は、よほどのことが無い限り、感染が上気道(↓図)の範囲に留まっており、インフルエンザ・ウイルスが肺炎(pneumonia)を引きおこすことはほとんどありません。

出典:https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/20/022600005/030200001/

ただし、上気道がインフルエンザ・ウイルスによって大きな損傷を受けると、別の病原体(肺炎球菌など)が肺に侵入して肺炎が起こることがあります。これを「二次感染(secondary infection)」と言います。

一方、新型コロナの方は、ウイルス自体が肺に侵入して肺炎を起こします。報道などで、重症者と呼んでいるのは、新型コロナによって肺炎を発症した人のことです。「重症化の割合が2~5%程度」と言うのは、新型コロナに感染して中等度~重度(人工呼吸器の装着が必要な程度)の肺炎になる/なった人の割合と言うことです。

この様にウイルスが肺炎を引きおこすことも、新型コロナが恐れられている原因です。

一方、ウイルスの感染が上気道で止まっている場合を「軽症」と呼び、感染者の約80%が軽症と報道されています、しかし、軽症の範囲はかなり広く、無症状~重度のインフルエンザ様症状に及んでいます。つまり、画像などで肺炎の徴候が認められず、自力で呼吸出来ている程度と言うことですから、軽症者の中には重度のインフルエンザと同様にかなりひどい咳や発熱がある人も含まれています。軽症のイメージとはかなり異なっていますよね・・・

↑正常な肺の画像(肺の部分が黒く透けている)

↑新型コロナによる重症肺炎の画像(肺全体が白く濁っている)

 

期待される治療薬

さて、話を本題に戻しましょう。

4月3日の会見で、管官房長官は「新型コロナウイルスの治療薬として臨床試験に使用するため、30カ国がアビガンの提供を求めてきている」と発表し、日本政府は無償での提供で調整している・・・としています。

この会見を聞きますと、アビガンは新型コロナの特効薬の様に思えますが、アビガンとはいったどの様なクスリなのでしょうか?

日本発の治療薬候補ーアビガン

アビガン(一般名Favipiravir[ファビピラビル])は、富山大学医学部の白木公康教授と富士フイルム富山化学(株)が共同で開発した国産の医薬品で、インフルエンザ治療薬として2014年に製造・販売の承認を得ています。

アビガンは、これまでのインフルエンザ治療薬(タミフルなど)とは全く異なる作用機序(mode of action)で効果を発揮する画期的な新薬です。従って、富士フイルム富山化学(株)は当初、大々的に発売する予定で承認申請と同時に大量に製造を開始しました。ところが、当局は承認審査の過程で、効果は認めながらも胎児への副作用(いわゆる催奇形性[teratogenicity])を問題とし、医薬品として一般には流通させない特殊な薬剤として承認しました。

具体的には、既存のインフルエンザ治療薬が効かないような新型インフルエンザウイルスが流行した場合に、国の判断によって使用する薬剤としたのです。つまり、未知の新型インフルエンザ・ウイルスがパンデミック(pandemic:広域でまん延する深刻な感染病の大流行)を起こした様な時の切り札として、国に備蓄しておく薬剤に指定したと言うことです。従いまして、販売価格も設定されておらず、医療機関であっても入手することは出来ません。国は現在、(インフルエンザ薬として)200万人分の量を備蓄しています。

その様なアビガンが、奇しくも新型コロナウィルスのパンデミックに遭遇して、一転注目を浴びるようになったのです。

出典:Getty Imagesアビガン錠(https://www.huffingtonpost.jp/entry/avigan-corona_jp_5e716bccc5b63c3b648699e5)

アビガンの作用機序

まず、コロナウイルス全般のヒト細胞への感染の順序を確認しておきましょう。

  1. 呼吸と共に吸い込まれたウイルスがヒトの呼吸器粘膜などに吸着して細胞内に侵入し、ウイルス自身の殻を破ってヒト細胞中に自分の設計図であるRNA(ribonucleic acid)を放出します。これを「脱殻(uncoating)」と呼びます。
  2. 放出されたRNAが、ヒト細胞内でコピーされて大量のウイルスRNAが出来ます。これを「複製(replication)」と呼びます。
  3. そのウイルスRNAが酵素によって再び殻に覆われ、ヒト細胞の外に出ていきます。これを「遊離(release/free)」と呼びます。(この時、ヒト細胞の細胞膜はズタズタにされるので、細胞は破壊されます)

出典:http://www.kansenshou.com/infection-guide-virus-proliferation/

タミフルなどの既存のインフルエンザ薬は、ウイルスが遊離する際に細胞膜に穴をあけるタンパク質を阻害して、ウイルスが感染細胞から遊離できない(外へ出られない)様にするのが主な作用機序です。しかし、細胞膜に穴をあけるウイルスのタンパク質はウイルスの種類によって微妙に異なっていますので、同じインフルエンザでもA型には効くが、B型にはイマイチ、C型にはマッタクと言う具合に効果が異なってきます。

一方、アビガンはウイルスのRNAを複製する際に必要な、ウイルスが持っているRNA依存性RNAポリメラーゼ(RNA-dependent RNA polymerase、別名:RNA逆転写酵素)を阻害することで、ウイルスRNAの複製(replication)が出来ない様にします。このポリメラーゼはコロナウイルスに共通した酵素ですので、インフルエンザの型が違っていても同じ様に効きます。

この様な作用機序をアビガンは持っているので、同様にRNA依存性RNAポリメラーゼを持っている新型コロナのようなコロナウイルス全体にも効果が出るのでは・・・と期待されているのです。

このアビガンのもうひとつの特徴は、既に承認されている薬剤であることです。つまり、ヒト(健常人や患者さん)での安全性のデータが揃っている・・・と言うことです。新薬の開発で最も時間と費用が掛かるのがヒトでの臨床試験ですが、アビガンではインフルエンザ患者を対象とした臨床試験の段階が既に終わっていますし、さらに、備蓄も充分にあるので、国が指示を出せば直ぐにでも使用出来る状態にあるのです。

アビガンの新型コロナへの作用

  • In vitroでの作用

2020年2月4日、中国科学院武漢ウイルス研究所等の研究グループが発表した速報論文によると、アフリカミドリザルから採取した生きた細胞に新型コロナを感染させ、アビガンを含む7種類の候補薬剤の抗ウイルス作用をin vitroで検討しています。

その結果によると、EC50(50%有効濃度:全感染細胞の内の半分に効果が見られた薬物濃度⇒EC50濃度が低いほど効果が強いことを示す)は、アビガンで61.88μMであり、エボラ出血熱治療薬として開発されたレムデシビルの0.77μMや抗マラリア薬のクロロキンの1.13μMと比較すると1/80~1/40の効果しか示せませんでした。

  • 臨床(in vivo)での作用

一方、2020年2月13日に中国で発行された科技日報(中華人民共和国科学技術部が発行)によりますと、中国深圳第三人民病院で行われた26名(中等度25名、重度1名)の患者にアビガンを投与する臨床研究では、投与開始後2日目で72%(19名?)の患者において解熱が認められ、6日目での肺の画像的好転率が38%(10名?)の患者で認められるという、かなり良い成績を示しています。

また、2020年3月12日付けの中国・科普時報(医学雑誌)によれば、同じく深圳第三人民病院で行われた臨床比較試験において、被験者からウイルスが除去されるまでの日数の中央値が、アビガン(35例に投与)で4日間であったのに対し、抗HIV薬のカレトラ(ロピナビルとリトナビルの合剤)(45例に投与)では11日間と約3倍の日数を要していました。

アビガンはプロドラッグ

アビガンでのin vitroの効果の弱さとin vivoでの良好な成績の乖離の原因は、アビガン錠に含まれる有効成分の特性によるものです。

アビガンは、消化管から吸収されて細胞内に入ると、細胞内でリボースおよびリン酸が付加されて、三リン酸体(ファビピラビルRTP)に変化します。体内で抗ウイルス作用を発揮するのは、この代謝された三リン酸体であって、代謝される前のアビガンは全く抗ウイルス作用を示さないことが解っています(↓図)。

出典:http://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06505/065050736.pdfを改変

In vitroの環境では、プロドラッグであるアビガンが十分な代謝を受けなかったため、in vivo(臨床)で認められる効果が発揮できなかったと考えられています。

観察研究が始まっている

2020年3月から、アビガン、抗HIV薬のカレトラ(ロピナビルとリトナビルの合剤)、抗喘息薬のオルベスコ、エボラ熱治療薬(日本未承認)のレムデシビル(ギリアド)を新型コロナ患者に投与する観察研究(希望する患者さんに同意を得た上でオープンラベルで投与し、その治療経過を記録する試験:対照群を置かずに「使った⇒効いた⇒治った」を観察する単純なデザイン)が始まっています(↓図)。

出典:file:///C:/T_Quest/00_ブログ/ネタ/参考資料/アビガン/COVID-19%20に対するRemdesivir%20の安全性および有効性を検証%200323_handouts.pdf

 

次回は、他の薬剤候補やワクチンの開発状況についてお話しします。

デハデハ

 

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