皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。

過日、医薬品開発の講習会を行った席上、受講生から「ジェネリック(医薬品)」って何ですか?という質問を受けました。

今日は、その「ジェネリック(医薬品)」について、考えてみたいと思います。

 ジェネリックって何だ?

病院へ行って、診察をしてもらい、お医者さんから処方せんをもらって、薬局から購入する医薬品を「医療用医薬品(ethical drug)」あるいは「処方せん医薬品(POM:prescription only medicine)」と言います。

この医療用医薬品には大きく2種類ありまして、先発医薬品と後発(ジェネリック)医薬品があります。

(https://www.daiichisankyo-ep.co.jp/whats_generic/ より)

 

 先発医薬品

先発医薬品とは、 発明・合成した化合物を非臨床開発(動物試験や安定性試験など) ⇒ 臨床開発(第Ⅰ相~第Ⅲ相の治験)⇒ 承認申請(規制当局の審査) ⇒  承認取得・発売 という極めて長い道のり(10年~15年)と数百億円~数千億円という巨額の投資をして開発した医薬品のことです。

先発品が承認される際には、承認要件として、新薬であれば通常は発売後8年間の「再審査期間」が設定され、診療の場での新薬の使用状況(有効性・安全性・副作用等)を8年間に渡って調査して、当局に報告する義務が課せられます。

先発メーカー(新薬を発売した製薬会社)にとっては、結構なハンデとなりますが、反面、この期間中はジェネリック医薬品(後述)が承認・発売することが出来ません。つまり、8年間の「再審査期間」中は、当該新薬の市場を独占出来ることになります。

また、極めて長い年月と多額の先行投資をしていますので、薬価(国が設定する薬の販売価格:この価格の3割または1割が患者さんの負担となります)もそれなりに高く設定されます。

 ジェネリック医薬品

先発医薬品(新薬)の再審査期間(通常は8年)及び新薬の物質特許期間(成立後25年)の両方が満了すると、先発メーカーの所有物であった新薬の有効成分(効果を発揮する化合物)は国民一般の物となり、だれでも自由に合成して使える様になります。

そこで先発メーカー以外の製薬会社は、使える様になった有効成分を新薬と同じだけ含有する医薬品を作成します。そして、規定の試験を行い、そのデータを付けて「後発医薬品」として厚労省に承認申請し、承認されるとそれを後発医薬品として発売することが出来ます。

この後発医薬品のことを海外ではgenericと呼んでいますので、日本でもそれが広まって、ジェネリック医薬品と呼ばれるようになりました。

ジェネリック医薬品に入っている有効成分は、先発品としてすでに長く治療に使われていますので、その安全性や有効性は既知のものとなっています。

ですので、ジェネリック医薬品に必要な承認申請資料は、発売する製剤が体内で先発品と同じ様に崩壊し、有効成分が先発品と同じ様に吸収される・・・というデータだけを提出すれば良く、それらの試験を実施する期間はせいぜい数年で済みます。

豆知識: 薬物治療のセントラルドグマ

薬物治療をする際に想定されている大前提(セントラルドグマ)は・・・

  1. 薬物の作用の程度は、その血中濃度に依存する
  2. 血中濃度が高くなれば、薬物の効果も強くなり、同様に毒性(副作用など)も強くなる
  3. 異なる製剤であっても、薬物の血中濃度のパターンが同様であれば、同じ有効性・安全性が再現できる

薬物や毒物の中毒の際の治療法として行われる「血漿交換(plasmapheresis)」は、血液中の薬物や毒物の血中濃度を下げることで、その作用が弱まる・・・との発想に基づいています。

従いまして、ジェネリック医薬品の開発期間は長くても5年程度、開発経費も多くて一億円と、先発品に比べれば、極めて少ない労力と投資で製品化する事が出来ます。

このため、ジェネリック医薬品(最初の10製品)の薬価は、その時点での先発品の薬価の50%となります(詳しくは後述)。

(https://www.daiichisankyo-ep.co.jp/whats_generic/ を改変)

この様に、ジェネリック医薬品とは、厚生労働省の認可を得て製造販売される、新薬と同じ有効成分を含む価格の安い「医療用医薬品」と言うことができます。

しかし、価格が安いと言うことは、利益も薄いと言うことですから、大量に売れることが予測出来る医薬品でないと、ジェネリック医薬品は出てこない・・・と言うことになります。

 実際、どのくらい安くなるの?

最近では政府がジェネリック医薬品の普及を推進していて、多くの病院や診療所でもジェネリック医薬品を処方している所が増えています。

では、実際に先発医薬品を使った場合とジェネリック医薬品を使った場合で、患者さんの負担額がどのくらい違うのでしょうか?

以下の例は、日本ジェネリック医薬品学会リーフレットに掲載されているものです。

安いタイプのジェネリック医薬品だと、患者さんの負担額(3割)が先発医薬品の1/4~1/6程度になっているのが解ります。

しかし、年間で1万円程度の節約としても、毎月では800円強にしかなりませんので、毎月数万円が徴収される健康保険料に比べると、実感できるほどの安さではありません

まっ、「だから、ジェネリック医薬品を多く使えば、巡り巡って健康保険料も安くなるのです」と政府は言っているのですが・・・。

 ジェネリック医薬品の入手方法

では、ジェネリック医薬品を手に入れるには、どの様にすれば良いのでしょうか?

その大前提は、ジェネリック医薬品が発売されていることです。

上述の様に、ジェネリック医薬品が使える様になるのは、新薬が発売されてから8~10年程度経過した後のことです。従いまして、発売されたばかりの新薬や使用頻度のあまり高くない先発医薬品、希少疾病用医薬品、オピオイド等の医療用麻薬などでは、ジェネリック医薬品は殆どありませんので、気をつけてください。

 まずはお医者さんや薬剤師さんに聞いてみましょう

ジェネリック医薬品を希望する場合は、病院・診療所・保険薬局で医師・薬剤師にそのことを伝えるのが手っ取り早いです。残念ながらジェネリック医薬品が無い場合はその旨を教えてくれます。

直接言いにくいのであれば、以下↓ の「ジェネリック医薬品お願いカード」を受診券と一緒に提示すれば、病院側で配慮してくれます。

日本ジェネリック医薬品学会ウェブサイトより

また、処方せんに記載されているのが先発医薬品の名称であっても、「変更不可」の欄にチェックがなければ、薬剤師さんと相談のうえジェネリック医薬品に変更することができます。処方せんに医薬品の商品名ではなく成分名が記載されている場合(これを「一般名処方」といいます)も同様にジェネリック医薬品に変更可能です(下図参照)。

(資料:厚生労働省)

豆知識: 医薬品の名前

医薬品は開発の段階が進むにつれて、多数の名前が付けられます。

  • 開発初期(創薬~):開発番号(アルファベットと数字の組合わせ;ABC-1234など)
  • 開発中期(非臨床開発~):新しい化合物の「一般名(Generic name)」を名称調査会に申請して公共で使用される化学品名(新薬の承認申請は通常、一般名で行われます)[例えば頭痛などで使用するバファリン(ライオン)は商品名ですが、その一般名はアスピリンです)
  • 申請時~:商品名(ブランド名)。承認される場合は、この商品名も承認事項となりますので、無闇に変えることは出来ません。

なお、ジェネリック医薬品の商品名は「一般名+会社名」に統一されています。例えば、一般名アトルバスタチンカルシウム水和物では・・・

  • 先発品:リピドール錠5mg アステラス製薬
  • ジェネリック医薬品の例1:アトルバスタチン錠5mg「サワイ」(沢井製薬)
  • ジェネリック医薬品の例2:アトルバスタチン錠5mg「NP」(ニプロ)

といった具合ですので、ジェネリック医薬品と先発医薬品の区別は比較的簡単です。

 初めて使う場合は「分割調剤」も

すでに先発医薬品を使っていて、途中からジェネリック医薬品に切り替える様な場合には「分割調剤」という方法を用いることが出来ます。

先発医薬品からジェネリック医薬品、あるいは、あるジェネリック医薬品を別のジェネリック医薬品に切り替える場合には、ジェネリック医薬品に変更したことによる体調の変化や、副作用が疑われる症状の有無等を確認するという意味合いから、処方せんに書かれている日数の一部を新しい医薬品にしてもらうことが出来ます。

例えば、処方せんの処方期間が4週間だったとすると、薬局で最初の2週間だけ新しい医薬品(ジェネリック医薬品)を処方してもらい、様子をみます。

大丈夫そうであれば、残りの2週間も新しい医薬品(ジェネリック医薬品)にしてもらい、もし、何か不都合が起こるようであれば、残りの2週間は元の医薬品(先発品など)に戻す・・・ということが出来ます。

以上、ジェネリック医薬品の概説を示しましたが、如何だったでしょうか?

次回はもう少し突っ込んだところ(ジェネリック医薬品の特徴とリスク)を見ていきたいと思います。

デハデハ