皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。

今日は、先日受講生から質問のあった「否定英文の訳し方」について考えてみたいと思います。

 not=~と言う訳ではない

英文では否定にnotを使いますが、このnotの訳し方の原則は文の最後に「~と言う訳ではない」をくっつけて考えると言う事です。

次の例文を訳してください。

It is not a stethoscope.    (1)

この文の意味は「それは聴診器(stethoscope)ではない。」となります。つまり、Itは聴診器以外(体温計や血圧計など)のものだと言う事で、It = stethoscope の関係を示す動詞is(be)が「not=と言う訳ではない=ではない」となり、「それは聴診器(stethoscope)と言う訳ではない=ではない。」となります。

では、次の例文はどの様な訳になるでしょう。

It is not my stethoscope.  (2)

こんどは「それは私の聴診器ではない。」となります。

つまり、聴診器は聴診器なのだが、誰か別の人のもので「私の」ではないと言う事で、notは It = stethoscope の関係の動詞 is(be) を否定している訳ではなく、「my=私の」に掛って「not=と言う訳ではない=ではない」となります。

否定の「not」は動詞(is not~)や形容詞(not good~)、副詞(not very~)を修飾しますが、動詞を修飾したり、形容詞あるいは別の副詞を修飾する語句は副詞ですので、notは副詞であることが解ります。しかし、通常の副詞と違って「not」という副詞の特徴は、 一番最後の修飾語 だと言う事です。

 not=一番最後の修飾語

例えば、文(2)を見てみますと文中の修飾語としてはnot(副詞)とmy(私の)がありますが、It =is= my stethoscope と言う関係が最後にnotで修飾されているのであって、It =is not= stethoscope という関係が最後にmyで修飾されているのではないと言う事です。

解りやすいように、別の例を挙げてみましょう。

次の例文はどの様な訳になるでしょうか?

I do not like the doctor very much.  (3)

これは大学入試問題の典型で、「私はあの医者がとっても嫌いだ。」ではなく、「私はあの医者があまり好きではない。」と訳すことはご存知ですよね。

では何故前者の「私はあの医者がとっても嫌いだ。」ではないのでしょうか?

ここが「not」という副詞の特徴である、一番最後の修飾語だと言う事です。つまり、この英文はI do not like the doctor(私はあの医者が嫌いだ)をvery much(とっても)が修飾しているのではなく、I like the doctor very much(私はあの医者がとっても好きだ)という肯定文を not(と言う訳ではない) が修飾しているのです。

ちなみに、「私はあの医者がとっても嫌いだ。」と言う英文は、非定形(do not like)を使うのではなく、肯定形の hate(嫌う) を使ってI hate the doctor very much.となります。これも英語の特徴を表していて、“do not like“と言う場合、日本語では「好きではない=嫌いだ」と解釈されますが、英語ではlikeを使っている以上ある程度 “like“ の要素があると解釈されて「好きではないが、全く嫌いという訳ではない」と受け取られます。

英語の発想でnotは、肯定文(I like the doctor very much)が「と言う訳ではない(not)」と、一番最後にくる修飾語になると言う事に注意しましょう。

 完全否定と部分否定

次のふたつの例文の違いが解りますか?

I do not know anything about the drug.       (4)

I do not know everything about the drug.    (5)

文(4)は完全否定で「私はその薬について何も知らない」となりますが、文(5)は部分否定で「私はその薬について全てを知っている訳ではない。」となります。

not+anyは完全否定で「全く(何も)~ない」、not+everyは部分否定で「全て~という訳ではない」という意味です。日本人は、everyを「全て」と覚えているのでnot+everyの方を「全て~ない」と訳してしまいがちですので、注意しましょう。

完全否定と部分否定を見分けるポイントは、全体を表す形容詞(everyとかallなど)にnotが付く場合が部分否定で、部分を表す形容詞(anyなど)にnotが付く場合が完全否定だと言う事です。

またこれを前述の「not」の特徴である、一番最後の修飾語という解釈で理解することも出来ます。

つまり文(5)は、I know everything about the drug (私はその薬について全てを知っている)という肯定文がnot(~と言う訳ではない)であることから「私はその薬について全てを知っている訳ではない。」となります。

一方、文(4)はI know something about the drug (私はその薬について[全てではなく]少しは知っている)という肯定文がnot(~と言う訳ではない)であることから「私はその薬について少しは知っている訳ではない。」となり、これは「私はその薬について[少しではなく]何も知らない。」と言う意味になると言う事です(some[something]は否定文や疑問文ではany[anything]に変わることはご存知ですよね)。

ということで、次のふたつの例文も見てみましょう。この違いはもう解りますよね。

I do not know every doctor in the hospital.  (6)

I do not know any doctor in the hospital.    (7)

文(6)は全体を表す形容詞(every)にnotが付いていますから、部分否定で「私はあの病院の医師を全て知っている訳ではない」となりますが、文(7)は部分を表す形容詞(any)にnotが付いていますから、完全否定で「私はあの病院の医師を誰も知らない」となります。

 和文英訳ではnotを使わない!

この様に英語のnotのニュアンスは結構厄介ですので、和文英訳の時には出来るだけnot(否定文)を使わないで、肯定文にする方が良いと思います。

そこで、「私はあの病院の医師を誰も知らない」を肯定文の英語にするために、まず原文を和文和訳して「私はあの病因の医師を誰も知っている」としたうえで、英語にすると・・・I know nobody in the hospital.

 その他の否定語

その他の完全否定と部分否定の例としては、nevernot alwaysがあります

次のふたつの例文の違いが解りますか?

The doctor never speaks English.  (8)

The doctor does not always speak English. (9)

文(8)の完全否定の文は、その医者は絶対に英語を話さないということを意味しています。この時、neverの後ろにくる動詞は原形ではなく、主語や時制の影響を受けます。これに対して文(9)の部分否定は「その医者はよく英語を話すけれどいつもではない」となり、notalways「いつも」を否定しています。

not always”に似た部分否定としてnot necessarily(必ず~という訳ではない)もあります。その他には、完全否定のnot+either(両方とも~ない)と部分否定のnot+both(両方とも~という訳ではない)や、完全否定のeither A or Bneither A nor B]と部分否定のboth A and Bもあります。

この違いを次のふたつの例文で示しましょう。

I do not like either dogs or cats.(I like neither dogs nor cats.)    (10)

I do not like both dogs and cats.    (11)

文(10)は完全否定で「私はイヌもネコも嫌いだ」となりますが、文(11)は「私はイヌとネコの両方とも好きと言う訳はない」となります。

 厄介な二重否定

少し古いですが、ローリング・ストーンズの1965年の大ヒット曲に“Ican’t get no satisfaction”と言うのがあります。AU携帯電話コマーシャルで例の「お父さんイヌシリーズ」の冒頭で流れていたので、記憶にある方もいるのではないでしょうか。

これは文法的解釈では「二重否定」と言われる部類の文で、no satisfaction(満足が無い=不満)のnot~という訳ではない)となりますので「不満という訳ではない=満足」という意味になります。

論理学的にも「否定の否定(-×-=+)」は即ち肯定という構造が成り立ち、次の英文のように

He was not unhappy(彼は不幸と言う訳ではなかった)    (12)

などに代表されます。

日本語でも「彼の気持ちが解らなくはない」と表現することで「彼の気持ちが解る」ことを意味しています。この様な二重否定は単に肯定文で表される意味とは異なり、二重否定のほうが「ためらい」を表し、意味的に「弱く」なる傾向があります。その効果を狙って、わざと二重否定の形を取っていることもあります。

 本当の二重否定の使い方

ところが、次の文の様に逆に二重否定のほうが「強い肯定」を表し、意味的に「強く」なることもあります。

Nobody lives without love.愛情無しに生きられる人はいない    (13)

この様に厄介なことがあるのですが、いずれにせよ、二重否定を訳す場合は「~でない・・・はないとなります。

ところがもっと厄介なことに、英語の表現には「否定の繰り返しは、強い否定」というのがあるのです。最初のローリング・ストーンズの“Ican’t get no satisfaction”がまさにこれなのです。

この曲の全体の歌詞を見ますと「満足」どころか、不満だらけの文句となっています。「満足するものなどどこにもない・・・」といった内容で、青年時代に感じた様々な不満をぶちまけた内容の歌詞なのです。

携帯電話のAUのコマーシャルが「顧客満足度No.1」を訴えているのとは極めて対照的な歌詞ですので、AUがそれを承知でこの歌を採用したのであれば、かなり高等なテクニックということになります。がしかし、真相は・・・解りません。

話を元に戻して、no satisfaction(満足が無い=不満)とnotを重ねることによって、強い否定を表現する二重否定を表していて(文法的にはかなり怪しいのですが)、強いて和訳すれば「ものすごく不満」となります。

同様に、ビートルズのヒット曲 “Can’t Buy Me Love” でも、 Say you don’t need no diamond ring. という二重否定の歌詞があり、意味は「ダイヤの指輪なんて要らない!って言ってくれ」ということです。これらの表現は黒人英語に端を発していると言われていて、文法的には間違った英語表現ですが、英語圏では既に市民権を得ている様です。

 否定表現を使わない

話が少しマニアックになってきましたが、日本語・英語共にメディカル文書での表現では出来るだけ否定形を使わない様にしましょう。

例えば、医療機器の取り扱いの表現で・・・

・・・を正しく取り扱わないと、正常に動作しないことがあります。    (14)

などでは、否定が2回も出てきます。

この様な表現では出来るだけ全体を肯定形に変えましょう。そして、否定語は1文では1回だけ使う様に心掛けましょう。

・・・を正しく取り扱わないと、誤動作することがあります。    (15)

では、次の表現を肯定形に書き直すとどの様になるでしょうか?

同意を得る前に、スクリーニング検査を行わないでください。    (16)

併用薬としてNSAID以外の抗炎症剤は使わないでください。    (17)

皆さんはもうお解りでしょう。文(16)は「同意を得てから、スクリーニング検査を行ってください」と肯定形になりますし、文(17)も「併用薬としてNSAIDを必ず使用してください」とすれば良いのです。

皆さんのまわりにあるメディカル文書や承認申請資料などを見直してみてください。否定形や二重否定形の文章が結構使われています。メディカル文書では正確・明確かつ誤解のない文章表現が求められますが、多忙な治験医師等は不注意で、文(16)を「同意を得る前に、スクリーニング検査」と読んだり、文(17)を「併用薬としてNSAID以外」と解釈したりします。

この様な場合でも肯定形であれば、「同意を得てから、スクリーニング検査」とか「併用薬としてNSAID」の様に正しく伝わります。是非ともためしてください。

デハデハ

広告