皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。

今日は、翻訳講座でよく質問されるカタカナ語の使い方についてお話ししたいと思います。

今回、受講生から次の様な質問をいただきました。

  1. Proteinは「タンパク質」、「蛋白質」、「タンパク」、「たん白質」のどの訳語を使えば良いのですか?
  2. 医薬品のZithromax(アザライド系抗生物質)を訳す時は、「Zithromax」、「ジスロマックス」、それとも日本での商品名「ジスロマック」のどれを使えば良いのですか?
  3. 動物試験で使われるdogは「dog」、「イヌ」、「犬」のどの訳語を使えば良いのですか?

皆さんならどれを使いますか?

 翻訳の奥の手

実は、翻訳の際の奥の手として「解らない時はカタカナで・・・」と言うのがあります。例えば、次の様なカタカナ訳文は、それなりに意味が通じてしまうのです。

  • Once the protein bound to a receptor, signals can activate the internal-cascade via a pathway to initiate the synthesis of enzymes.

カタカナ訳文: プロテインがレセプターにドッキングすると、シグナルがパスウエイを経てインターナル・カスケードを活性化し、エンザイムの合成がスタートする。

これは極端な例ですが、これに似た文章はメディカル文書でもよく見かけます。しかし、医薬品や医療機器の承認申請関係の文書ではカタカナだらけのこの様な文はあまり好ましくありません。例えば、プロテイン⇒タンパク質、レセプター⇒受容体、エンザイム⇒酵素などの様に、ちゃんとした日本語がある場合、申請資料や公文書などではそれを使うべきでしょう。

カタカナ訳文はあくまで「例外」と心得てください。

とはいうものの、反対にシグナル=信号、パスウエイ=経路、カスケード=縦列などは、漢字よりカタカナの方が解りやすくなってきています。

では、邦文とカタカナ語をどの様に使い分ければよいのでしょう。

 医薬品等の名称

まずは医薬品の名称の表記方法について説明しましょう。

一般的に認識されている表記方法は以下の様になっています。

  1. 日本国内で承認・販売されていない薬剤は、一般名、商品名共に英語(原語)でスペルアウトします。
  2. 日本国内で承認・販売されている薬剤は、一般名、商品名共に日本で登録されている名称をカタカナで表記します。ただし、漢方薬の場合は漢字(これも中国からの外来語ですが)で表記します。

日本国内で承認・販売されているかどうかは、PMDAの情報提供ページ(詳しくはこちら)に医療用医薬品、医療機器、一般用医薬品、体外診断用医薬品に関する添付文書情報が公開されていますので、そこで検索してみましょう。

ただし、英文で検索する場合は一般名(generic name)を入力してください(海外の商品名では検索できません)。

またWebには、日本国内で承認・販売されていない薬剤の個人輸入の代行を行う業者のサイトもあり、そこでは正式ではない薬剤のカタカナ表記が載っている場合がありますので注意してください。

と言うことで、冒頭の Zithromax(一般名:azithromycin)の場合、PMDAの情報提供ページで調べますと見つかりますので、日本国内で承認・販売されていることが解ります。

そこで見つけた、和名の一般名(アジスロマイシン)もしくは商品名(ジスロマック)をカタカナで表記することになります。

 和名のカタカナ表記

タンパク、タマゴ、リンゴなどの様に、ちゃんと漢字(蛋白、卵、林檎)があるにも係わらず、カタカナ表記する場合があります。

タンパクの場合は漢字の「蛋」が当用漢字に無いために 蛋白→たん白→タンパク と変化してきたと言われています。また、「タンパク」なのか「タンパク質」なのかという疑問も起こりますが、自然科学では質を付けた「タンパク質」が正式らしいです。しかし、同一のメディカル文書の中でもこの2つが混在している場合も多くあります。

「タンパク質」というと、「バランスのとれたタンパク質の摂取・・・」と言う様に包括的にproteinを表現していると考えられます。一方、「蛍光タンパク」、「Gタンパク」、「C反応性タンパク」などの様に質を取った「タンパク」というと、ある特定のprotein、あるいは共通の性質をもったprotein群を表現している場合が多いようです。

では、その他のタマゴ、リンゴ、ミカン・・・などはどうかと言いますと、漢字の林檎は元々日本産のリンゴを意味し、外国産のリンゴ(苹果)とは区別していたとのことで、外国産の苹果→リンゴとなったとのことです。これを拡大解釈しますと、egg→エッグ→タマゴ、orange→オレンジ→ミカンと言う様に外来語の和性化によるカタカナ表記と考えることができるでしょう。

しかし、現代の日本文では林檎もリンゴも区別なく使われていますので、タマゴやミカンも同様に、カタカナ表記でも受け入れられているようですので、どちらでもよいと思われます。ただし、同一文書内では統一して使用しましょう。

 試験や実験の対象となる生物

動物実験で実験対象となることが多い、鼠や犬、猿などや、臨床試験での対象となる人についてはどうでしょうか?

試験や実験で対象となる人を含むこれらの動物は、原則としてカタカナ表記にします。

例えば、次の様になります。

人間 ヒト
イヌ(ドッグではありません)
サル(ただし、チンパンジーはそのままチンパンジー)
マウスまたはラット(ネズミとはしません)
ウサギ(ラビットとはしません)
guinea pig モルモット

ただし、性別は漢字で表します⇒ ❌オスイヌ 🙆雄イヌ 

 人名や地名

人名は固有名詞ですので、英語でスペルアウトするのが原則です。日本人の名前でも、英文で表記されていれば、原則英文でスペルアウトします。中国人や韓国人、アラビア諸国人でも基本的には英語(ヘボン式)で表記します。

しかし、有名な人名はすでに日本語化している場合があります。例えば、Robert Kochロベルト・コッホ、von Willebrand=フォンビルブランド、Torsade de Pointes=トルサード・ド・ポアンなどはカタカナ表記が普通です。特に人名の付いた名詞、例えば、コッホの四原則、フォンビルブランド因子、トルサード型心室頻拍などは必ずカタカナ表記となります。

ここで、「ヴァ」「ヴィ」「ヴ」「ヴェ」「ヴォ」と発音するvwに対するカタカナは「バ」「ビ」「ブ」「ベ」「ボ」と表記され、「ヴ」は殆ど使われませんので注意しましょう(○フォンビルブランド、❌フォンヴィルブランド、)。

地名も固有名詞ですが、例えばヘルシンキ宣言、ワシントン条約、ニューデリー政策などの様に、こちらは日本人の発音をカタカナで表記する傾向が強いです。英語の発音と違っている場合が多いので気をつけましょう。

例えば、国名のIranはカタカナでは「イラン」と書きますが、本当の発音では「イーーン」の方が近いですし、アフガニスタンの首都の発音は「カーブル」ですが日本文では「カブール」と表記されますし、北京も英語の発音では「ベイジン」ですがカタカナでは「ペキン」とします。

 注意すべきカタカナ語

メディカルの分野でのカタカナ表記の原則は、短くなるように表記することです。

例えば利尿剤であるthiazideは発音どおりの表記では「サイアザイド」となりますが、これが薬局方では「チアジド」となっていて、サイ→チ、ザイ→ジと短くなっています。同様に、thiamineも「サイアミン」ではなく「チアミン」に、phospholipaseは「フォスフォリパーゼ」ではなく「ホスホリパーゼ」となります。

この他にも、メディカル用語で注意すべきカタカナ語が幾つかあります。血糖降下ホルモンのInsulinは発音どおりの表記では「インシュリン」となりますが、カタカナ表記ではシュ→スとなって「インスリン」、関節が破壊されていく病気のrheumatoidは「リューマチ」ではなく「リウマチ」と表記します。ただし、発音は「インシュリン」であり、「リューマチ」となります。なんか変!

また、英語ではない外来語や和製カタカナ語も多くありますので気をつけましょう。代表的なものを以下に示します。

 

カタカナ 英語 解 説
ナトリウム Sodium ラテン語ないしはドイツ語のNatriumから
キーオープン Unblindness 完全な和製英語、外人には通じません
アンケート questionnaire フランス語のenquêteから
ナイーブ New、pure フランス語のnaïveから、ただし、最近では英文でもそのまま使われています。
ホッチキス stapler ホッチキスは商品名です
カルテ medical record ドイツ語のKarteから
ソーラーシステム solar heating Solar systemは「太陽系」の意味です
サイン(署名) signature サイン=Signは「徴候」の意味です
クーラー air conditioner Coolerは水などを冷やす「冷却器」
クレーム complain Claimは主張、(特許などの)請求範囲
ウイルス virus 英語の発音は「ヴィールス」です
スマート(体形) slim Smartは「利口な」「粋な」という意味
ニューハーフ transsexual これも和製英語です
パンフレット Brochure、leaflet Pamphletは詳細な解説書のこと
ミス(失敗) mistake Missは独身女性の敬称
ルーペ(虫眼鏡) magnifying glass ドイツ語のLupeから
レンジ(電子-) microwave Rangeは「幅」「範囲」のこと

カタカナ語は明治期に発達しましたが、発音を正確に表そうとするなら「アメリカ」よりも「メリケ」の方が良い訳です。が、しかし、明治期には耳から入る音よりも目から入る文字の影響が強かったようでAmerica=アメリカとなってきたということです。

それが更に日本人の好みによって変更され、パーキスターン⇒パキスタン、イーラーン=イラン、ペシャーワル=ペシャワールなどと表記されるようになりました。

もっとひどい例は、インドの言語であるTamilがタミル語ではなく「タミール語」と変に延ばされたり、トルコ料理のshish kebabがシシカバーブではなく「シシカバブー」と延ばす位置が変わったりという有様です。

結局、カタカナ語も日本語の一部・・・と言うことなのでしょう。

デハデハ

お知らせ: ISSインスティテュートで、6月と7月に短期集中コースを行うことに決定しました。いずれも3回完結で、「翻訳や通訳に必要な知識」という目線でお話しします。

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医薬翻訳のための「基本から学ぶ、がんの病態」6/20, 27, 7/4
医薬翻訳のための「基本から学ぶ、統計解析」7/11, 18, 25

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