皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。
最近、テレビのコマーシャルで「口内フローラ」というのをよく耳にしませんか?
ただ、コマーシャルを見ただけでは それって何? という感じなので、今日は「口内フローラ」について少し考えてみたいと思います。
もくじ
口内フローラって何だ?
口内(口腔内)とは口の中のことですが、これはお解りですよね。
フローラ(flora)とは「お花畑」のことですが、実はそれほどロマンティックなものではありません。
唾液(だえき)などをシャーレで培養すると細菌が仲間同士でコロニーを作るのです。形や色が様々なコロニーが集まったものを細菌叢(さいきんそう)と言いますが、それを顕微鏡などで眺めると↓まるで「お花畑」の様に見えることから、(細菌)フローラと呼びます。
細菌フローラ
このフローラが、口の中のサンプルからであれば「口内フローラ」と呼び、腸内のサンプルからであれば「腸内フローラ」と呼びます。
つまり、口内フローラとは、口の中の細菌群・・・と言う意味です。
口内フローラと病気の関係
ヒトの口内には700種類以上の細菌がいて、その数は1000億個以上とも言われています。
この中には、善玉菌と悪玉菌、そして日和見菌(ひよりみ菌)がいます。
口内の悪玉菌
口内の悪玉菌とは、虫歯や歯周病を起こす菌のことです。口内フローラの約10%~15%を占めると言われていますが、少ないに越したことはありません。
虫歯を起こす悪玉菌の代表格がミュータンス菌と連鎖球菌です。これらの菌は毒素を放出することで、歯を溶かしていき、虫歯の原因となります。
一方、歯周病を起こす悪玉菌の代表格がジンジバリス菌です(ジンジバ=gingiva=歯肉)。この菌は偏性嫌気性菌と言って、酸素が嫌いな菌で、酸素があると死んでしまいます。
そこで、ジンジバリス菌は歯と歯肉の間の歯周ポケット内に潜んで、酸素を避けつつ歯肉ポケット内で増殖していきますが、毒素を持っていますので、歯周病の原因となります。
そして、これらの悪玉口内菌は、食事の度に食物と共に消化管内に飲み込まれて行きますし、また、進行した虫歯や歯周病の患部から血管やリンパ管内に侵入していきます。
これらの悪玉口内菌が脳梗塞や心筋梗塞、肺炎の原因になっているという報告があります。さらに、最近の研究では・・・
- アメリカの若者に3週間、歯みがきをしないでもらう実験をしたところ、血液中の細菌毒素が予想以上に増えてしまった。
- リウマチや脳梗塞の患者の患部から、口内細菌に由来する物質が検出された。
- 調査した人の口内歯周病細菌と、その人の脚の動脈硬化部位から採取した歯周病細菌が同じだった。
- 血管の病気だけでなく、ガンや認知症、糖尿病などにも口内細菌が関与している可能性が示唆された。
- 内視鏡で採取した大腸癌の組織から、その患者の口内悪玉菌(フソバクテリウム;歯周病菌のひとつ)が検出された。
などが続々と報告されていて、口内悪玉菌が全身疾患にも影響を及していることが解ってきました。
口内の善玉菌
口内での善玉菌とは、悪玉菌に対抗して悪玉菌の増殖を阻止したり、外部から口に入ってくる食中毒の菌やインフルエンザなどの病原菌を身体の中に入れないようにブロックしてくれる細菌のことです。
口内善玉菌は、乳酸菌などの一般に体に良いとされている菌と同じものです。そして、乳酸菌と言えばヨーグルトですから、これがTVコマーシャルで繰り返しているポイントです。
口内善玉菌も口内フローラの約10%~15%を占めていて、常に悪玉菌と覇権争いをしています。
実は、口内フローラでのMajorityは日和見菌で、口内フローラの約70%~80%を占めています。これらの日和見菌は毒にも薬にもならない菌ですが、善玉菌と悪玉菌の抗争を端から傍観していて、分の良さそうな方を応援する特性を持っています。
口内フローラを改善する
理想の口内フローラの状態は口内悪玉菌が「ゼロ」と言うことですが、それはなかなか難しいことです。
しかし、とにかく悪玉菌を減らす努力をすることで、口内フローラが改善し、身体の病気も予防できるようになります。
唾液量がポイント!
では、どうすれば悪玉菌を減らせるのでしょうか?
唾液は雑菌の増殖を抑えたり、舌苔(ぜったい;舌の上で真菌が増殖して苔状に白くなること)を洗い流したりして口内の衛生を保つ働きを持っています。そして、唾液には元々、口内フローラを良好に保つための抗菌成分「ラクトフェリン」や「ラクト パー オキシダーゼ」が含まれています。
また、唾液にはカルシウムなどが含まれているので、歯の表面の修復を助けてくれる働きもあります。
従って、唾液が十分に分泌されて潤っていれば、悪玉菌はなかなか増殖出来ないのです。
唾液を十分に分泌させる最も簡単な方法は、「良く噛む」ことです。食物を咀嚼することで唾液分泌が自然と促されますので、食事の際は、よく噛むことを意識して食べると良いでしょう。
お口のネバネバは黄色信号
朝起きたときに、口の中がネバネバしていることはありませんか?
寝ている間に口呼吸をしていると、口腔内が乾燥し、唾液分泌が減るので、雑菌がどんどん繁殖してしまいます。
さらに、虫歯菌であるミュータンス菌は、睡眠中に口腔内に残っている糖分を食べて大繁殖します。そのとき、消化した糖分をグルカンという粘性物質に変え、結果として口のねばつきが生じてきます。
ですから、正常な人でも、起きがけは多少口内がネバネバします。通常は、朝のハミガキをすれば解消するのですが、そうで無い場合は、注意する必要があります。
ドライマウスやストレスなどによって慢性的に唾液の分泌が悪くなると、唾液による浄化作用が低下し、雑菌が増えることになります。
こうなると、日中でも口内がネバネバしたり、口臭が強くなったりします。この様な症状を感じたときは、歯科ではなく、内科に受診した方が良いでしょう。
予防法の基本は、ハミガキの実施と、よく噛んで食べることです。
歯の喪失と全身の健康
歯周病にせよ、虫歯にせよ、最悪の事態は歯の喪失です。歯の喪失が身体の健康に及す影響は計り知れません。
一般に、残存する歯が20本を下回ってくると、食物の咀嚼に不自由を感じるようになります。硬いものを避けることで、咀嚼回数が減り、食生活の劣化でメタボリックシンドロームを招いたり、栄養の偏りや食欲の低下による低栄養を招きます。
低栄養が続きますと、運動量がへり、筋肉量が落ちていきます。足腰が弱ってくることもさりながら、咀嚼機能の低下によって視覚や聴覚、あるいは脳機能(学習記憶能力、認知症等)にも影響が出ることが解っています。
虫歯菌は歯の周辺でしか生きていけませんが、歯周病菌は血液中で増殖出来るため、循環血に混じって身体中に散らばっていきます。これによって、様々な疾患が引き起こされているのではないかと言うことが注目され、Periodontal medicine(歯周医学)という新分野も出来ています。
以上に述べたように、口内フローラを健全に保つことは、健康な生活を送る上で極めて重要であることが解ってきました。
口内フローラを健全に保つための基本は、唾液分泌の維持・促進であり、そのためにはよく噛んで食べることと、朝晩のハミガキ(洗口液も効果あり)にあることを覚えておきましょう。
デハデハ