皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。

今日は、和文でよく出てくる「~がある」の英訳について考えてみましょう。

私の行っている和文英訳のコースで、以下の和文を英訳してもらいました。

成熟した生命体は多数の違った細胞型で構成されている。細胞は組織として組み立てられ、個々の組織は一般的に少数の細胞型を含み、ある特定の生理学的機能を受け持つ。・・・哺乳動物には200種を越える異なった細胞型があるが、一方で、単純な無脊椎動物ではほんの23種類の細胞型しかない。

問題は赤字下線の文で、半数の受講生が「There are・・・」、つまり、There is構文を使っていました。

日本人の英訳では、「~がある」とくると直ぐにThere is構文を使う人が多いのですが、There is構文を使う時にはちゃんとしたルールがあります。

今日は、このルールについてお話ししましょう。

 初耳構文

There is構文は日本語の「~がある」「~がいる」と言うときに使われますが・・・

ルール1: 原則は「~」が読み手(聞き手)にとって初耳、つまり、未知のものの時だけに使います。

There is a pen とか There is a cat と言うときの a pen a cat が読み手(聞き手)にとって知らないものである場合に、There is構文が使えます。

そのため、penやcatには不定冠詞のa(an)が付けられます。逆にいいますと、There is構文の時には(原則として)定冠詞のtheとか、所有格のmyとかtheirとかは使えません。

🙆 There is a pen.   ❌There is the pen. There is my pen.

読み手(聞き手)にとって初耳でない場合は、There is構文を使わずに・・・

The pen is there.     Your pen is on the book.

などと表現します。

 

ルール2: 初耳ものですから、必ず「何処にある」とか「どんなもの」という説明語句が続きます。

❌There is a pen.  🙆 There is a pen on the desk.  

読み手(聞き手)はpenについて初耳ですから、それがどの様なpenなのか?何処にあるのか?という情報が欲しいわけですので、「penがあるよ」だけでは不親切ですよね。なにか追加情報を付けてあげましょう。

実を言いますと、There is構文のThereは、この追加情報の代名詞となっているのです。ですので、Thereが意味する本当の名詞(追加情報)がないと、文は完成しないのです。

 例題を幾つか

以上の事を踏まえて、次の英文を解釈して見ましょう。

There is a park around the corner.

Please wait the park for half an hour.

前半の部分では「角を曲がったところに公園があるんですよ。」と、聞き手に初耳となる情報を提示していますので、parkには不定冠詞のaが付いています。

そして、代名詞Thereの指している追加情報が、 around the corner として提示されているのですね。

後半の部分では「その公園で30分ほど待っていてください。」となり、既に前文で話題となったparkで待つのですから、parkには定冠詞のtheが付いています。

次は上のルール1の例外の例文です。次の和文を英訳してください。

君の探している犬はドアの後にいるよ。

Thereの後には初耳の対象(主語)を示すのがルールですが、この文では「君が探している」という特定の犬になりますから、冠詞はaではなく、限定するtheとします。

There is the dog behind the door.

しかし、聞き手は探している犬が何処にいるのか知らないので、この和文は聞き手にとって初耳となりますので、There is構文となっているのです。しかし、犬はどんな犬でも良いわけではないので、例外的に定冠詞のtheを付けます。

それこそ There is no rule without exceptions. (これもThere is構文です)ということですね。

最後に、ルール2の例外も含めた例文です。次の和文を英訳してください。

君の探している犬ならそこにいるよ。

ルール2では、Thereが意味する本当の名詞(追加情報)が来る・・・と言いましたが、thereの本来の意味は「そこ」ですので、

There is the dog there.

ちょっと見、奇妙な文ですが、最初のThereは追加情報の代名詞として、後のthereは具体的な追加情報としての「そこ」を意味しています。

the dog となっている理由はお解りですよね。どんな犬でも良いわけではなく、「君が探している」という特定の犬になりますから、限定するtheとしています。

 

しかし、There is~構文の原則は、次の二つのルールですのでお忘れなく!

  • ルール1: 原則は「~」が読み手(聞き手)にとって初耳、つまり、未知のものの時だけに使います。
  • ルール2: 初耳ものですから、必ず「何処にある」とか「どんなもの」という説明語句が続きます。

 There is構文の慣用句

There is構文を使った慣用句を幾つかご紹介しましょう。

 There is no ~ing

これは「~することはできない」という意味で、There isの後に動名詞がきます。

例文:There is no telling exactly what he wants.

(彼が望んでいることを正確に言うことはできない。)

この慣用句の応用版で、次の様な表現もあります。

There is no use …ing. There is no good …ing. There is no point …ing.

これで「するのは無駄だ」という意味になります。

例文:There is no use waiting for him.

(彼れを待っても無駄だよ。)

名曲「5番街のマリー」のワンシーンの様ですが、結構便利な慣用表現ですので、覚えておきましょう。

 There is As and As

これで「といっても色々ある」という意味になります。ここで、Asは同じ複数形の名詞がきます。

例文: There is teachers and teachers.

(教師と言って色々ある。)

こっちは島倉千代子さんの「人生色々」のイメージですが、単に教師と言っても千差万別、良いのもいれば、悪いのも・・・という意味です。

 冒頭の和文英訳

ということで、There is構文の使い方は結構微妙で難しいことがお解りいただけたかと思います。

その上で、冒頭の和文を見直してみましょう。

成熟した生命体は多数の違った細胞型で構成されている。細胞は組織として組み立てられ、個々の組織は一般的に少数の細胞型を含み、ある特定の生理学的機能を受け持つ。・・・哺乳動物には200種を越える異なった細胞型があるが、一方で、単純な無脊椎動物ではほんの23種類の細胞型しかない。

この赤字タイプの部分を英訳する時のポイントは、 「細胞型」が読者にとって初耳かどうか? と言うところです。

この和文を見てみますと、赤字タイプの文の前に細胞型を説明した語句が並んでいますので、この場合、「細胞型」は読者にとって既に既知の情報と考えられます。

従いまして、英文はThere is構文ではなく・・・

Mammals contain more than 200 different cell types, ・・・

という、主語から始まる通常の表現になります。

しかし、仮に、この赤字タイプの文が先頭にあったならば、出てきた「細胞型」は読者にとって初耳ですから・・・

There are more than 200 different cell types in mammals, ・・・

と、今度はThere is構文になります。

以上、There is構文についてお話ししましたが、There is構文になるかどうかは「初耳」がポイントになりますので、覚えておきましょう。

デハデハ