皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。
本日は、Medical Writingのお話しをしましょう。
Medical Writingとは著作をすることで、メディカル翻訳との最大の違いは、元原稿がないことです。
翻訳の場合は英語なり日本語なりの元原稿があるのですが、Writingの場合には白紙に文字を書いていくことになります。
現在、私が受託しているMedical Writingのお仕事で最も多い案件は、医学雑誌への投稿用の医学論文のドラフトを作ることです。殆どのWritingは英文となります。
ということで、今日は医学論文がどの様に作られていくかをお話ししたいと思います。
もくじ
論文の構成はIMRaD
現在では、日本国内であっても医学論文は殆ど英文で投稿されます。
その理由は、論文が最も評価されるのは、世界中の研究者からどれだけ頻繁にRefer(引用、参照)されているか・・・と言うことですが、Referの頻度を増やすためにはPubMEDなどの文献検索サイトでリストアップされるのが最も効果的です。
これらのメジャーな文献検索サイトは、その殆どが英文中心ですので、畢竟、日本の研究者も優先的に英文で投稿するようになりました。
医学系の英文論文では、その章立てがほぼ次の様に決まっています。
- Introduction:はじめに、序論、緒言
- Methods / Materials and Methods:方法、材料及び方法
- Results:結果
- Discussion:考察
の頭文字を取ってIMRaD(イムラッド:aはandの略)と呼ばれています。
雑誌のなかには、これに加えて Conclusions:結論 を書く場合もありますが、基本はIMRaDです。
作る順番
雑誌に掲載される出来上がった論文の構成はIMRaDですが、実際に論文の原稿を作る際の手順はI⇒M⇒R⇒and Dの順ではありません。
手順1:使用する図表を選定する
雑誌の読者が雑誌の中で気になる論文を見つけるポイントは、論文のタイトルと掲載されている図表です。
論文が読まれる重要なポイントの一つとして、図表が挙げられます。特に図(Figures)や画像(Graphics)は論文の顔となるものですので、それらの作成や選定には十分時間をかけて、慎重に行う必要があります。
私達はWriterですから、自分で図表を作ると言うことはあまりないかと思いますが(私はよく自分で作ってClientに提案していますが・・・)、必要とあらば図表の改訂や新規作成をClientにお願いすべきでしょう。
論文に掲載される図表の数は、投稿規定などで制限されていることが多いのですが、通常は6点~10点程度だと思います。
論文の価値は、研究者が発見したり発明した事項がどれだけ斬新で、医学や科学の進歩にどれだけ貢献出来るかという新規性で決まります。Clientと十分に打ち合せをして、どの図表をどの様に表示し、どの順番で配置するのが、その論文の斬新性や新規性を最も良く表現しているかを検討し、規定の図表数内に納めることが最初のステップです。
手順2:選定した図のLegendを作成する
使用する図表が決まったならば、それらの図や画像のLegend(説明文)を作成します。
雑誌の掲載論文の読者は、論文を読む際に、まず、図表とその説明文を読みます。
従いまして、説明文は本文を読まなくても図表の意味するところがある程度解る様な記載が必要です。具体的には、図の凡例に加えて、データの読み方、結果の解釈、結論、注意点などを網羅しておく必要があります。
選定した図表とその説明文を眺めることで、論文のストーリーと訴求ポイントが見えてきますので、それらをClientと確認しましょう。
手順3:MethodsとResultsを作成する
Methodsは試験のプロトコールなどに従って、時系列で記述します。
記載内容は、必要最小限にしますが、論文の読者が当該試験や実験を再現(再試験)する際に必要な情報を網羅しておきます。また、すでに選定してある図表のデータに関するMethodsも必ず記載しましょう。
実際に行った手順や方法の事実を淡々と述べていきますが、その際に筆者の感想や「もし・・・しておけば」などの仮定の話を含めないように気をつけましょう。
Resultsは、選定した図表に従って、得られた事実や結果を客観的に記述します。その際に筆者の感想や考察・結論の話を含めないように気をつけましょう(これらはDiscussionの項で行います)。
また、Methodsで述べた項目は原則として全て、なんらかの結果をResultsに記載します。
Resultsでの記述の順番は、可能な限りMethodsでの記述の順番に合せましょう。それによっては、図表の順番も変わってくることがあります。
MethodsとResultsでは事実の記述がメインになり、図表のLegendなどもありますので、比較的書きやすい項目です。
MethodsとResultsの項でのWord数(文字数)は本文全体の60%程度までにしておきましょう。また、引用文献もほとんど出てこないことが多いです。
手順4:考察(Discussion)を行う
Resultsで提示した結果の解釈や感想・問題点などをDiscussionで提示します。ここで注意することは、Resultsの単なる繰り返しにならないようにすることです。
Discussionの項の重要な役割は、本研究の斬新性や新規性などの訴求ポイントを明確にし、何故斬新で新規なのかという根拠を提示することです。
この項の記載内容は、Clientの意向が極めて強く反映してきますので、訴求ポイントなどの内容と表現方法を綿密に打ち合わせておきましょう。
また、最近では、Discussionの項でLimitations、つまり、本研究の限界や欠点にも触れておくことが求められますので、その点もClientと十分打ち合わせておくと良いでしょう。
DiscussionのWord数の目安は本文全体の20%~30%となります。また、多くの引用文献が必要となるでしょう。
手順5:Introductionの作成
論文では最初の項になるIntroductionは、作成手順では一番最後になります。
Introductionの項の重要な役割は、当該研究に関連する最新の研究の成果と問題点を明らかにし、本研究で証明したい仮説が何で、どの様にして証明していくのかを提示することです。
この項の記載内容も、Clientの意向が極めて強く反映してきますので、問題提起などの内容と表現方法を綿密に打ち合わせておきましょう。
Word数の目安は本文全体の10%~20%となります。また、過半数の引用文献がIntroductionで提示されることになります。
論文TitleとAbstract
論文のTitile(表題)はその論文の顔ですから、十分に吟味しておく必要があります。
特に、臨床試験の場合は、対象となる被験者(疾患)や試験デザイン(二重盲験とか無作為化、前向き・後ろ向きなど)、主要評価項目、そして重要なKey wordsなどが含まれている必要があります。
Titleは、PubMEDなどで一覧として表示される場合の重要なパートですので、出来るだけインパクトのある表現が必要ですが、あまりに奇をてらったものは敬遠されますので注意しましょう。
Titleは原稿の作成期間中ずっと考えておく必要がありますが、できるだけ最後の方に固定します。Titleの固定が早すぎますと、論文の内容がTitleに引っ張られて偏ってしまう危険性があります。
また、英文Title内に文法的誤りがありますと、それだけで不採用になることがありますので、この点も注意が必要です。
AbstractもPubMEDなどで一覧として表示される場合の重要なパートですので、十分吟味して作成する必要があります。
Abstractは本文が完全に固まってから作成するのが無難ですが、Abstract作成後に本文を修正した場合は、必ず、本文とAbstractの整合性をチェックしましょう。
今日は、Medical Writingのお仕事で多い、医学論文の英文投稿原稿を作成する場合のポイントと注意点の概略をお話ししました。
実際の作成にあたっては、他にも注意すべき点が多々ありますが、その辺は改めてご紹介します。
デハデハ