皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。
私がやっているメディカル翻訳講座の受講生から、次の様な質問を受けました。
次の英文のfindingsの訳し方が解りません。
These findings provide additional understanding of the role of PD-1 monotherapy in treatment-naïve patients and confirm there is still a significant opportunity for improving outcomes for the majority of these patients. 辞書を調べると、結果、データ、所見、成果など様々な訳語が出てきますが、どれもあてはまる様な、あてはまらない様な・・・という感じです。 |
今日は、このFindingsについて考えてみましょう。実際、メディカル文書でしばしば出てきますが、訳しにくい単語ですよね。
もくじ
Findingsの直接的意味
Findingsの由来は-find=みつける、発見する、(努力して)手に入れる-から来ていますので、何かしら「みつけたもの」というニュアンスがあります。
英和辞典では次の様に説明されています。
- [不可算]見いだすこと, 発見;[可算]見いだされたもの, 発見物;(しばしば ~s)で、得物
- (通例 ~s)で、(調査・研究などの)結果, 成果, 結論
- (通例 ~s)で、《法律》(裁判官・陪審などの)認定, 決定, 裁定, 評定
- 《医学》(医師等の)所見
- ((~s)、(米))(職人の使用する)道具, 材料
- (通例 ~s)で、《行政》指摘事項
やはりメインは 発見・発見物 でして、調査や実験での発見物と言うことから、⇒データ、結果、成果 ⇒ さらに発見者の意見などが入って、知見、所見、結論 と発展していった様です。
英英辞典で調べてみますと・・・
- Something that has been found.
- The information that someone has discovered as a result of their study, work etc.
- A conclusion reached after examination or investigation
- A statement or document containing an authoritative decision or conclusion
- Small tools and materials used by an artisan
となっていて、resultとかconclusion、decisionなどと近い関係にあるようです。
データ、結果とは
Findingsの本質は「発見したもの/こと」ですが、研究や実験で発見したもの/ことはデータとか結果とも呼ばれます。
データ(Data)とは
では、データとはどう言う意味でしょうか?
データ(Data)というと数字を真っ先に思い浮かべますが、何かを測定した個々の結果(レントゲン写真や心電図なども含みます)とか、情報、資料を指しています。
つまり、これから解析や分析をして、何らかの結論を得ようとする大元の事実、もしくは、コンピュータに入力された個々の数値を指しています。
Findingsがこの様なデータを指す場合もあります。
例えば、地層の調査をしていて、その地層の年代を特定するのに重要な証拠品となるある化石を発見した様な場合は、直接の意味でその化石が Findings=発見物=データ となります。
結果とは
次に、結果とはどう言う意味でしょうか?
結果とは、事実として入手したデータをコンピュータなどを使って、解析したり分析したりして得た成果物のことです。結果には通常、考察やコメントは含まれません。
Findingsはどちらかと言いますと「結果」の意味合いが強く、Raw dataを色々といじくってみて得られた成果物(=結果)を意味していることが多い様です。
この結果に対応する英語としては、Findingsの他にOutcomesとResultsがあります。
OutcomesとResults
結果を意味するOutcomesとResultsには少々異なった意味合いがあります。
Resultsとは
原因(実験や行動、介入など)と直接的な因果関係が成り立つ 成果=結果 のことをResult(s)と言います。
研究や実験、試験などはこの「直接的な因果関係が成り立つ成果」を得るための行為ですから、望むと望まざるに係わらずResult(s)が得られたことで、一段落しますので、Result(s)には何かが終了する・・・というニュアンスも含まれています。
Outcomeとは
メディカルの分野ではOutcomeを「転帰」と訳す場合もありますが、転帰とは病気や怪我などの経過~結果や、それを治療した結果という意味です。したがって、Outcomeには「成り行き」といったニュアンスがあります。
Resultsと違って、原因との直接的な因果関係は問いません。とにかく out=出て come=こちらに向かってくる もの全てを意味します。
Outcomesの中から、原因と関係しそうなものを取捨選択したのがResultsという感じです。
Findings=発見したもの にはOutcomesとResultsの両方が含まれてきます。
Findingsの拡張的意味
Findings=発見したもの とすると、レントゲン写真に白い影を発見したり、心電図に異常な波形を発見することも含まれてきます。
レントゲン写真や心電図は、診断(Diagnosis)の手段ですから、患者さんに「白い影があります」とか「異常な波形があります」と伝えるだけでは意味がありません。
そこで、白い影や異常な波形に医学的な考察やコメントを付け加えて、患者さんに説明するのですが、その様なコメント付きの結果のことを「所見」とか「知見」と呼びます。
所見とは
この様に所見とは、特に医師や弁護士、研究者などの専門職の人間が、得られた成果物に対して自分の意見や判断を述べることを言います。
単なる意見やコメントと違い、得られた事象やデータ、証拠を十分に吟味し、検討し、分析した上での論述というニュアンスがあります。
知見とは
所見は意見やコメントなどの考え方の方にウエイトが置かれていますが、知見(ちけん)というのは、逆に、見聞きして「知ったこと」を意味します。
ここで、気をつけなければいけないことは「見聞きして知ったこと」は多分に主観的であるということです。我々は往々にして「見れども見えず」「聞けども聴かず」の状態にあります。
ですので、知見とは筆者(話し手)が自分で「見聞きして知ったこと」であって、コンピュータのアウトプットや測定器の測定結果そのものを指している訳ではない・・・ということに注意しましょう。
また、知見には「知識」という意味もありますので、筆者(話し手)が学会見聞きした情報や雑誌を読んで得た情報なども知見と言います。
いずれにせよ、所見も知見も多分に筆者(話し手)の主観的なもの・・・という意味合いがありますので、時代の変遷と共にその評価が変わる可能性があります。
Findingsの拡張的意味として、こういった主観的な所見や知見も包含する場合があります。
一方、測定結果や数値などのデータや結果は、経時変化をしませんので、普遍的なものと言えます。こちらはFindingsの本質的意味の方になります。
質問の答え
以上の観点から、冒頭の質問者の英文を見てみましょう。
These findings provide additional understanding of the role of PD-1 monotherapy in treatment-naïve patients and confirm there is still a significant opportunity for improving outcomes for the majority of these patients.
和訳例:これらのFindingsによって未治療の患者におけるPD-1による単剤治療の役割がさらに深く理解でき[← 無生物主語の訳し方]、また、これらのFindingsによって多くの未治療の患者での転帰を改善するための重大な選択伎が依然として残っていることが確認できる[← 省略語句を再度述べる方法]。
この文は、ある臨床試験の報告のDiscussionの中で示されていて、Findingsは過去の報告や論文での「発見」を意味しています。
従いまして、Findingsの本質的な意味である「結果」と訳すのが、妥当と思われます。
可能性として拡張的意味の「所見」ということも考えられますが、この筆者が求めているのは他の研究者の主観ではなく、普遍的な結果・結論と考える方が適切と考えますが、如何でしょうか。
以上に示した様に、Findingsには様々な意味がありますが、翻訳する際にはまず、本質的意味の「発見物:結果、データ、成果」を考えましょう。それでシックリ来ないときは、拡張的意味の「主観的:所見、知見」を考えましょう。
デハデハ