皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。

大型連休明けに、いきなり厄介な質問が飛び込んできました。オッズ比(Odds ratio)とハザード比(Hazard ratio)に関するものです。

メディカル(医薬)翻訳講座の受講生Aさんから次の英文に関する質問が来ました。

問題となった英文: これは体外受精(IVF:in-vitro fertilization)による不妊治療の米国で行われた臨床試験の結果に関する一節です。

Women without IVF insurance coverage were more likely to discontinue treatment than women with insurance coverage (adjusted odds ratio [aOR] = 3.12; 95% confidence interval [CI], 2.22-4.40). African-American women were more likely to discontinue treatment (aOR = 2.95; 95% CI, 1.54-5.66) and returned for treatment more slowly (adjusted hazard ratio [aHR] = 0.44; 95% CI, 0.28-0.71) than non-Hispanic white women, regardless of IVF insurance coverage or income.・・・

和訳例: IVFが保険でカバーされない婦人は、保険でカバーされている婦人よりも(不妊)治療を中断する傾向が強かった(補正後のオッズ比aOR]=3.12;95%信頼区間[CI]、2.22~4.40)。IVFが保険でカバーさせているか否かや収入に関係なく、非ヒスパニック系白人の婦人よりもアフリカ系米国人の婦人の方が(不妊)治療を中断する傾向が強く(aOR=2.95;95%CI、1.54~5.66)、また、(不妊)治療への復帰がより遅かった(補正後のハザード比[aHR]=0.44;95%CI、0.28~0.71)。

受講生Aさんは苦労して、なんとか和訳はしたそうですが、和訳文の内容が殆ど理解出来て居なかったそうです。そこで、私への質問・・・となったのですが、具体的な質問は次の様なものでした。

質問1:オッズ比、ハザード比とは何ですか?

質問2:どちらも「被験群/対照群」の比較で、95%ICが1よりも大きく、1を含んでいなければ、被験群が対照群よりも統計学的に有意に勝り、逆に、95%ICが1よりも小さく、1を含んでいなければ、被験群は対照群よりも統計学的に有意に劣る・・・ということらしいですが、オッズ比とハザード比は何がどう違っていて、どの様に使い分けるのでしょうか?

う~む、かなりヘビーな質問ですが、実際にオッズ比とハザード比を正しく理解されている方はそんなに多くはおられないと思います。

ではまず、オッズ比(Odds ratio)からみてみましょう。(ハザード比については、次回)

 オッズ比とは?

オッズ比を理解するためにはまず、オッズとは何かを知らなければなりません。

 オッズ(Odds)とは何か?

オッズという言葉で一番に連想するのが「競馬(horse race)」ですが、メディカル文書で出てくるオッズは競馬の場合とはちょっと違います。

例えば、肺癌に対する喫煙の影響を調査する場合を考えてみましょう。

もし、喫煙している人の内で肺癌になっている人の割合(罹患率:morbidity)が、喫煙していない人の内で肺癌になっている人の割合と同程度であれば「肺癌の発症に喫煙は影響していない」となります。

反対に、喫煙者での肺癌罹患率が非喫煙者よりもかなり高かった場合は「肺癌の発症に喫煙は影響している」となります。

ここで、喫煙状態が似ている成人男女を100人、無作為に選んだとしましょう。そして、肺癌の有無を診察したところ、肺癌(過去に肺癌であった病歴のある人も含む)と診断された人が30人いたとしましょう(これはフィクションです)。

この時、肺癌になる確率をPとするとき、喫煙者集団のオッズは、

肺癌の人数÷肺癌でない人数=P÷(1-P)

で計算できます。

従いまして、喫煙者集団のオッズは 30人÷70人=0.3÷(1-0.3)=0.43 となります。

ここで、注意したいのは、私達が通常「罹患率」と呼んでいるのは 

肺癌の人数÷総人数

=30人÷100人=0.3

ですので、オッズは罹患率とは違うものだと言うことです。

じゃあ、オッズって何だ??? となるわけですが、統計学的に言いますと、0%~100%で変動する罹患率を、以下のグラフの様に、0~∞に大きく変動する変数に変換することです。

つまり、オッズにすることで、罹患率のちょっとの変動も大げさに表現出来るようになります。

ですが、通常はひとつのオッズだけで議論されることは殆どありません。

 オッズ比(Odds ratio)とは?

喫煙者集団での罹患率やオッズの値を上で示しましたが、この数値だけを見てもそれが多いのか少ないのかよく解りませんよね。

そこで、対象集団として、喫煙の経験のない成人男女300人(非喫煙群)を無作為に選んで、肺癌の有無を診察したところ、肺癌(過去に肺癌であった病歴のある人も含む)と診断された人が15人いたとしましょう(これはフィクションです)。

この時のオッズを計算すると;

15人÷285人=0.05÷(1-0.05)=0.053

となります。

喫煙群のオッズが0.43でしたから、非喫煙群の8.1倍と高値を示していたことが解ります。

この様に、喫煙群(被験群)のオッズを非喫煙群(対照群)のオッズで割ったものを オッズ比(Odds ratio) と言います。

オッズ比=被験群のオッズ÷対照群のオッズ

=0.43÷0.053=8.1

このオッズ比の読み方ですが、被験群のオッズ(喫煙者での肺癌になるリスク)と対照群のオッズ(非喫煙者での肺癌になるリスク)が同じ(即ち、「肺癌になることに対する喫煙の影響は非喫煙群と同程度」)場合、オッズ比は1となります。

今回の様に被験群のオッズが対照群より大きい(喫煙群の肺癌になるリスクが非喫煙群より大きい)場合は、オッズ比が1より大きくなります。

反対に、被験群のオッズが対照群より小さい(喫煙群の肺癌になるリスクが非喫煙群より小さい)場合は、オッズ比が1より小さくなります。

ただし、ここで最も注意を要することは、オッズ比は被験群と対照群のリスクの相対的大きさを表しているだけなので、オッズ比が8.1と言うことを;

「喫煙をすると喫煙をしないときに比べて、肺癌になるリスクが 8.1倍になる !」

と言っては ダメ~~~~🆖 と言うことです。

オッズ比はあくまで感覚(フィーリング)の値ですので、オッズ比が1より大きい場合は

ああ、なんとなく被験群のリスクの方が大きいのだな。

と言う程度に止めておくことが肝心です。

つまり、オッズの値が8.1倍になった・・・というだけであって、リスクが何倍になったかを表している訳ではない!ということです。

逆に、オッズ比が1より小さければ感覚的に「ああ、なんとなく被験群のリスクの方が 小さい のだな」と思ってください。このことをイメージで図にすると以下の様に表現できるでしょう。

 

 リスク比(相対危険度:Relative risk)

では、リスクがX倍になったとか1/Xになったとか言いたい場合はどうすれば良いのでしょうか。

こういう時は、被験群と対照群の各罹患率を求めて、その比を計算します。これをリスク比(Risk ratio)あるいは相対危険度(RR:Relative risk)と呼びます。

上記の例で、非喫煙群(対照群)の罹患率を求めますと;

15人÷300人=0.05(5%)

となります。

一方、喫煙群(被験群)の罹患率が30%でしたから、

RR(リスク比)=0.30÷0.05=6.0

となり、非喫煙群の6倍になることが解ります。

この数字の意味するところは、皆さんが期待しているとおり、「非喫煙者に比べると、喫煙者が肺癌になるリスク(危険性)は6倍になる」ということです。

リスク比(RR)の方が感覚的にずっと理解しやすいですよね!!!

 オッズ比の利点

じゃあ、なんで感覚的に理解しやすいリスク比(RR)ではなくて、理解しにくいオッズ比(OR)を使うのでしょうか?

実を言うと、今回の事例の研究だけを考えると、わざわざ解りにくいオッズ比を使う必要はないのです。

上記の喫煙と肺癌の例を表↓にまとめて見ましょう。

肺癌あり 肺癌なし 合計
喫煙者 30 70 100
非喫煙者 15 285 300
合計 45 355 400

上述の事例は、喫煙者の集団と非喫煙者の集団での肺癌発症の有無を比較した研究でした。

この時のオッズ比は OR=30/70÷15/285=0.43÷0.053=8.1 で、リスク比は RR=30/100÷15/300=0.30÷0.05=6.0 でした。

しかし、この研究はまた、肺癌の人の集団と非肺癌の人の集団での喫煙の有無を比較することも出来ます。← データの切り口を変えて、違った見方をしてみる・・・ということ。

この時のオッズ比は

OR=(30/15)÷(70/285)=2.0÷0.246=8.1

となり、最初のオッズ比と同じになりました。 

次に、この時のリスク比を計算すると

RR=(30/45)÷(70/355)=0.667÷0.197=3.39

おや~、最初のリスク比は6.0だったのに 違ってるぅ! 

そ~~~~なんです。同じ主旨の研究を行って、同じ様な結果が得られても、見方を変えるとリスク比の値が変わってしまうので、 違った見方をした同様の研究結果同士を比較することが出来ない のです。

しかし、オッズ比のスゴイところは、違った見方をした同様の研究結果でもオッズ比の値は変わりませんので、違った見方をした同様の研究結果同士を比較することが出来てしまう のです。

この様に、自分の今回の研究だけのことを考えれば、解りにくいオッズ比なるものをあえて使う必要はありません。が、しかし、今後の自分の追加研究や、他の研究者の成績との比較検討を想定するとき、データの見方や切り口を変えても値が変わらないオッズ比を使う方が何かと便利ですので、オッズ比が頻繁に使われる様になったのです。

オッズ比の説明だけでずいぶん長くなってしまいましたので、ハザード比(これはオッズ比と全く違う概念のもの)については、次回説明したいと思います。

デハデハ

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