皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。

今日は、遺伝子治療の臨床試験の論文に出てきた(Treatment) Group(投与群)とCohort(コホート)の違いについて考えてみたいと思います。これも、ある受講生からきた質問です。

この臨床試験は、関節リウマチ(RA:rheumatoid arthritis)患者を対象に、ウイルスをベクター(vector)として使用し、ある遺伝子を患者に導入ことで病気を根本から治療しようという目的で行われました。

関節リウマチによる関節破壊の経時変化

豆知識:

関節リウマチ(RA)は、関節に炎症が続くことにより関節が破壊されてしまう疾患で、自分の免疫システムが関節を作っている軟骨や靱帯に攻撃を仕掛けてしまう自己免疫疾患(autoimmune disease)です。従って、免疫の記憶を司る遺伝子を正常な遺伝子と入れ替えることでRAが治癒すると考えられています。

投与(動脈注射)するウイルスベクターの量は、1011個/mLと1012個/mLと1013個/mLの3群を用意し、対照群としてプラセボ(移入する遺伝子を持っていないウイルスベクター)を設定していました。

試験デザインとしては、無作為化、二重盲験、プラセボ対照、群間比較のデザインとなるのですが、デザインについてさらに次の様な記載があります。

The trial was designed to treat 3 cohorts of 20 individuals, 15 of whom received active-vector and 5 of whom received placebo-vector. ・・・ (1)

この英文でのcohortは投与群とどの様にちがう集団なのでしょうか?

☕ コホート(cohort)とは

コホート(cohort)の語源は古く、ローマ時代の歩兵軍隊↓の呼び名で、300名程度の歩兵集団を1単位としてコホートと呼んでいました。

軍隊ですから、命令一下、敵軍に果敢に攻め込むのですが、個人がバラバラに突撃するのではなく、特にローマ軍は統制の取れた一団(コホート)単位で攻撃を仕掛けていました。

この様にコホートは仲間であり運命共同体であり、寝食を共にする同じ境遇の集団でした。

このことから転じて、コホートとは、共通の条件や環境にある個人の集まりを意味するようになりました。例えば・・・

  • 生まれた時期が同じ ⇒ 「団塊の世代」とか「令和元年生まれ」とか
  • 生活環境が同じ ⇒ 「一人っ子集団」とか「喫煙者集団」とか
  • 生活地域が同じ ⇒ 「東京在住者」とか「跳んで埼玉県人」とか

と言ったように、現在では、何らかの共通する特徴を持った個人の集まりを意味する様になりました。

今回取り上げた論文の試験では、まず、20名のRA患者を募集し、1011個/mLのベクターを注入する15名と、プラセボ(移入する遺伝子を持っていないベクター)を注入する5名を無作為に割り振った試験を行い、この合計20名の患者で副作用等が起こるかどうかの安全性をチェックします。

安全性が確認されたならば、次の20名の患者を募集し、1012個/mLのベクターを注入する15名とプラセボ(移入する遺伝子を持っていないベクター)を注入する5名を無作為に割り振った試験を行い、・・・と言った具合に段階的に試験を行っていました。

この20名のRA患者の集団を、この試験では「コホート」と呼んでいますので、この試験でのコホートの特徴は、同時期に試験ベクターを投与された20名のRA患者の集団・・・と言うことになります。

コメント:現在、令和元年5月1日午前9時58分。新天皇がいま、御所に到着しました。

☕ 投与群(Group)とは

一方、臨床試験での投与群(Group)とは通常、同じ用法・用量(administration regimen/dosage)の薬剤投与を受けた被験者(患者)集団を意味します。

今回取り上げた論文で言えば、遺伝子を持ったウイルスベクターを1011個/mLを注入された患者集団、そして1012個/mLを注入された患者集団、1013個/mLを注入された患者集団、さらに、プラセボ(移入する遺伝子を持っていないベクター)を注入された患者集団の4つの集団を「投与群」と言います。

これらの投与群へのRA患者の割り振りは無作為(Random)に行われますので、同一投与群内でいう特徴は、 注入されるベクターの量と種類が同じ と言うことです。

同じ特徴を持った集団・・・と言う意味でみれば、投与群もコホートと言えなくはないのですが、この試験では、上述のコホートには目標とする遺伝子を持ったベクターを注入された患者と、プラセボのベクターを注入された患者が混在していますので、コホート同士を比較することが目的ではなく、あくまで、お互いの比較を目的とする投与群に属する患者を集めるための手段となります。

コメント:現在、令和元年5月1日午前10時38分。新天皇による剣璽等承継の儀けんじとうしょうけいのぎ)がつつがなく終わりました。

以上の様に、同じ試験の中で「投与群」と「コホート」が共に定義されている場合、コホートは投与群に含まれる対象被験者(患者)を集めるための手段として使われ、コホート自体が比較・検討されることはありません。

ですので、最初に出てきた(1)の英文での”cohorts”は「(投与)群」とは訳さずにカタカナで「コホート」と訳すのが正解です。

☕ 介入試験(Intervension study)と観察研究(Obsevational study)

実は、臨床研究の中には、コホート同士を比較する研究もあります。これをコホート研究(Cohort study)と呼びます。コホート研究とは何でしょうか?

上述の様なプラセボを対象とした二重盲験比較試験の様な試験を介入試験(intervention study)と言います。

ここで「介入」の意味は、試験期間中に使用できる併用薬に制限をかけたり、使用が禁止される治療法を設定したり、スケジュール管理された来院、食事制限・・・など、試験に参加した被験者(患者)の日常生活や通常診療に立ち入ってきて、強い制約を課す、と言うことです。

つまり、個人のライフスタイルに「介入してくる」試験の総称を介入試験と言います。(例えれば、警察が自動車の往来を止めて、1台ずつ荷物検査や不審物の検問をするような感じです。スムースな交通が大幅に制限されてしまいますよねぇ。)

一方で、個人のライフスタイルに介入せず、あるがままの状態を観察する試験のこと観察試験(obsevational study/reserch)と言います。(例えれば、街角や交差点に観察者が座って、往来する自動車の種類や台数を計測する[交通量調査]という感じです。交通の流れが妨害されることはありませんよねぇ。)

コホート研究は、この観察試験の一種で、あるがままの状態を観察する試験です。

例えば、喫煙の肺癌発生に対する影響を検討する研究を考えてみましょう。

介入試験(群間比較試験)の場合 ⇒ 被験者を無作為に2群の分けて、一方の群には1日タバコを20本(一箱)を喫煙させ(喫煙群)、もう一方の群では完全な禁煙状態にさせた(禁煙群)上で、10年間の肺癌の発生率を群間で比較検討する・・・と言うような(個人のライフスタイルを強く制約する)試験となります。こういう試験は非現実的ですよね。

観察研究(コホート試験)の場合 ⇒ 過去10年間に平均で1日タバコを20本(一箱)程度喫煙していた被験者(喫煙コホート)とこれまで喫煙を経験したことのない被験者(禁煙コホート)を集め、これまでと同じライフスタイルを続けてもらった上で、今後10年間での肺癌の発生率をコホート間で比較検討する・・・と言うような試験になります。こちらは、観察しているだけですので、個人のライフスタイルに殆ど影響を与えないですよね。

介入試験と観察研究の違いについては、日を改めて、考えてみたいと思います。

デハデハ

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