皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。
今日、医薬品や医療の分野では「遺伝子組み換え(gene recombination/genetic engineering)」は極めてポピュラーで優秀な技術で、健康産業の分野で一大変革を起こしています。
その関係で、医療従事者や医薬品産業に就いている人々は、遺伝子組み換え技術に対して比較的良いイメージを抱いています。
しかし、今日、スーパーで買い物をしていましたら、お豆腐を売っているコーナーに大きく「遺伝子組み換えダイズ無使用!!!」と書かれたポスターが貼ってありました。
同じ健康産業を担っている医薬品や医療の分野ではWelcomeの遺伝子組み換え技術が、食品の分野では何故嫌われているのでしょうか?
今日は、食品の分野で遺伝子組み換え技術が忌み嫌われていることについて、探ってみたいと思います。
もくじ
💮 丹波の黒豆は大もて! なのに・・・
お正月のおせちに欠くことのできない「黒豆」、美味しいですよね。その黒豆の中でも丹波篠山産の黒豆は別格で、価格は普通の黒豆の約3倍程度します。その分、確かに美味しいですね。
この黒豆はダイズの一種で、他には白(黄)大豆、青大豆、赤大豆などがあります。
黒豆自体の歴史は古く平安時代には既に栽培されていたそうで、最盛期には30種類を越える品種があったそうです。
丹波地方では、古くから栽培されていたこの黒豆の品種改良を重ね、農家の皆さんの大変な努力の結果として、高級ブランドとしての「丹波の黒豆」-正式には、「丹波黒」(主たる生産地:兵庫県、京都府、岡山県、滋賀県)と言う品種だそうです-が出来上がったそうです。
農業の歴史は「品種改良(breeding)」の歴史と言っても過言ではなく、もっと美味しいお米やもっと甘いイチゴ、もっと大きいジャガイモ・・・など、数え上げればキリがありません。
✋ ちょっと待ったァ~~~
よ~く考えてみましょう。
品種改良とは、原種のダイズや稲、ジャガイモなどを何世代にも渡って丹念に交配させたり、薬品や放射線、ストレスなどを浴びせることによって、人間にとって好ましい突然変異を起こし(偶然に起こるのを辛抱強く待つのですが・・・)、ある時たまたま出来た新種を大事に育てていくことです。
これって、結局、遺伝子組み換え技術ですよね!
そ~~~なんです。
私達が何気なく使っている「品種改良」とは即ち、「遺伝子組み換え」を行っていることなのです。
何十年、何百年をかけてひたすら好ましい突然変異を待つことで達成される「品種改良」ですが、実は、好ましい特徴を示す遺伝子が特定出来れば、その遺伝子を原種に組み込むことーつまり、遺伝子組み換え技術ーで、数年という短い時間で品種改良が出来てしまうのです。
⚠ 出だしを間違えた遺伝子組み換え
いま世界で一番出回っている遺伝子組み換えの農産物は、ダイズ、トウモロコシ、ワタ(綿)です。そして、これらの農産物の主要生産国は米国、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、インドの5大国で、これらの国内での普及率は優に90%を越えているそうです。
そして、これらの5大国の最大の輸出先のひとつが日本になっています。日本が輸入しているダイズやトウモロコシの80%以上は遺伝子組み換え品種だそうです。
✒ 生産者目線で始まった遺伝子組み換え
農作物の収穫に最も影響を与えているのが、自然災害と雑草と害虫です。
農家の日々の仕事の大半は、雑草と害虫から農作物を守るための作業です。雑草取りと害虫駆除の作業を効率化することで生産コストは削減でき、さらに、収穫量が増せば輸出等の販売量が増加することは解っていました。
雑草や害虫の駆除には、除草剤などの農薬を使いますが、これらの農薬を大量に使用すると農産物もダメになってしまいます。そこで、農産物に害の出ないギリギリの量の農薬を散布するのですが、その量では雑草や害虫がなかなか駆除しきれないというジレンマがあります。
ここに目を付けたのが米国のモンサント社です。モンサント社はダイズやトウモロコシの遺伝子を組み換えて、自社の販売している除草剤に耐性(耐えられること:tolerability)のある品種を作り、それを販売しました。
つまり、この遺伝子組み換えをした新種のダイズやトウモロコシを栽培すれば、モンサント社の除草剤を大量に使用することができ、雑草を完全に駆除することが出来るようになったのです。
しかし、容易に想像がつくように、しばらくするとモンサント社の除草剤に抵抗性のある雑草が出てきました。
そこで、モンサント社は自社の別の除草剤にも耐性のある遺伝子組み換え品種を作り出し、多種類の除草剤を大量散布することで対抗しました。しかし、それでも抵抗性のある雑草が出現し・・・と結局はイタチごっこの様相を呈してきたのでした。
そうしている内に、農地には大量の除草剤が染みこみ、降雨によってそれが河川に流出し、重大な環境汚染原になってしまいました。
さらに、当然のことながら、農作物は水や栄養と共に、農地に撒かれた除草剤も吸収し、それがダイズ豆やトウモロコシの実に蓄積していったのです。
農作物自体は耐性がありますから吸収した除草剤による影響は受けませんが、それを食べた人間や家畜は・・・と言うことなのです。
害虫対策はもっと過激で、ある種の細菌が作り出す殺虫効果のある毒素の遺伝子を農作物に組み込み、その農作物を害虫が食べると死んでしまう様にしました。
これによって、農家は殺虫剤を撒く必要がなくなり、労働力が大幅に軽減されることになりました。
しかし、これもまた、イタチごっこの様相を呈して、その毒素に抵抗性のある害虫が出現したため、さらに強力な毒素の遺伝子を組み込み・・・となっていったのです。
この様に、放っておいても害虫が死んでしまう農作物が出来上がって、生産者である農家は大幅なコストダウンが出来ましたが、食べた虫が死んでしまうような農産物をあなたは食べたいと思いますか?・・・と言うことなのです。
以上の様に、農産物における遺伝子組み換えの出発は、生産者の目線で開始され、発展してきました。消費者のことを全く考えていない遺伝子組み換え農産物のせいで、遺伝子組み換え技術が悪者になってしまったのです。
✒ 現在は、消費者目線の遺伝子組み換え!
この失敗を糧に、現在行われている遺伝子組み換えによる品種改良は、消費者の益になるような遺伝子組み換えとなっています。
その例を以下にお示しします。
● フレーバーセーバー・トマト
これは遺伝子組み換えトマト ↓ ですが、貯蔵や輸送による品質劣化の原因となっている分解酵素の働きを抑制する遺伝子を組み込んで、収穫から時間が経っても、日持ちが良く美味しい完熟トマトを消費者に提供できるように改良したものです。
写真で、左の2列が遺伝子組み換えをしていない通常のトマトです。だんだんくしゃくしゃに傷んでいくのが解ります。一方、真ん中の2列と右の2列がフレーバーセーバーと呼ばれる遺伝子組み換えトマトで、収穫から45日が経過してもつやつやの状態を保っています。タイトルの”Gene silenced”とは「遺伝子を黙らせた」と言うことですが、品質劣化の原因となっている分解酵素の遺伝子が働かないようにsilencedにした・・・と言う意味です。
これは、消費者フレンドリーな遺伝子組み換え技術と言えるでしょう。
● ゴールデンライス
これは開発途上国向けに作られた遺伝子組み換え稲 ↓ で、黄金色をしています(左側)。
この黄色の成分はベータ・カロテンといい、体内に吸収されるとビタミンAになります。このベータ・カロテンを大量に作り出すように遺伝子を組み換えた稲です。ビタミンA不足による失明や貧血が深刻なアジアの開発途上国では、人々を救う有効な食品となっています。
これも、消費者フレンドリーな遺伝子組み換え技術と言えるでしょう。
⚠ どうすれば危険な遺伝子組み換え農産物を避けられるか?
残念ながら、日本国内に流通している食物(野菜やくだもの、肉、食用油やマーガリンなど)の殆どに危険な遺伝子組み換えダイズや遺伝子組み換えトウモロコシが使われています。
一応、原料にこれらの遺伝子組み換えダイズや遺伝子組み換えトウモロコシが使われている場合には食品表示に「遺伝子組み換え○×使用」とする表示義務がありますが、遺伝子組み換えダイズや遺伝子組み換えトウモロコシを使った製品(油、マーガリン、醤油、砂糖など)を原料としている場合は表示義務がありません。
さらに、「遺伝子組み換え○×は使用していません」という表示もあながち信用できないのです。その食品の総重量の5%以下に遺伝子組み換え○×を使っている場合であればこの表示を掲げて良いことになっています。
この様に、現在の日本では遺伝子組み換え農産物を使用していない食品を探すことは殆ど不可能に近いと言っても過言ではありません。ただし、世界的にGMO(Genetically Modified Orgasnisms:遺伝子組み換え作物)反対運動が起こっていることも忘れてはなりません。
以上をまとめますと、遺伝子組み換え技術自体は大変画期的な技術で、医薬品や医療の分野では大いに活躍しています。また、農産物や畜産、漁業でも消費者目線に立った遺伝子組み換えが行われていますので、一概に「遺伝子組み換えは危ない」とするのではなく、正しい知識を得て、正しい判断をしていくことが大切ではないでしょうか。
もっと知りたい方は、⇒サルでもわかる遺伝子組み換え 安田美絵@Luna Organic Institute
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