皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。
今日は、メディカル(医薬)翻訳をしていく上で、是非とも理解しておきたい、免疫(Immunity)についてお話ししたいと思います。
私達フリーランスにとっては、体が資本であり、毎日元気に仕事が出来る健康が活力の源です。
私達が元気でいられる最大の原因は、私達の体に備わっている免疫が日々活動してくれているからです。
(以下に示します情報や表現は、イメージしやすいようにしています。学術的には必ずしも正確ではない表現も出てきますが、ご容赦ください。)
もくじ
✨ 免疫入門
免疫(めんえき)の文字を分解してみましょう。
まず、疫(えき)とは疫病に代表される様に災いを意味していて、病気に罹ったり、ケガをしたりという状況に陥ることです。
次に、免(めん)は免除とか免責に代表される様になにかからまぬがれる、のがれる、ことを意味しています。
私達は、様々な病原菌やウイルス、寄生虫、害虫、カビなどに囲まれて生活していますが、それらの害(疫)から防御(免)しているのが免疫です。
例えば、エイズに感染するとエイズ・ウイルス(HIV)が体内の免疫を司っている白血球に入り込んで、白血球の活動を弱らせてしまいます。ですので、HIVに感染したエイズ患者さんの免疫能は病気の進行と共に弱っていきます。
エイズ患者の主な死因として、カリニ肺炎(carinii pneumonia)があります。これは、ニューモシスチス・カリニと呼ばれる微生物(水虫菌[真菌:fungus]の仲間だとか寄生虫[原虫:protozoa]の仲間だとか言われていますが、はっきりしたことは解っていません)が引き起こす肺炎です。
これは感染力の極めて弱い病原微生物で、誰の体内にもいるのですが、通常の免疫力があれば完全に押さえ込まれています。しかし、末期のエイズ患者では免疫力が極めて弱っているために、感染力の極めて弱いニューモシスチス・カリニが繁殖して、肺炎を起こしてしまうのです。
この様に、免疫が正常に働いてくれないと、私達は1日たりともこの世界に生きてはいられないのです。
✨ 免疫の主役は白血球
血液の中には大きく分けて3種類の細胞があります。
ひとつが赤血球(erythrocyte、RBC:red blood cell)で、これは、肺から全身に酸素を運び、消化管から全身に栄養を運びます。ふたつ目が、血小板(thrombocyte、Plt:platelet)で、これはケガなどで血管が破れて出血が起こったときに、患部を塞いで止血(hemostasis)をします。
そして3番目が今日の主役である白血球(leucocyte、WBC:white blood cell)で、免疫全般を司っています。白血球はさらに様々な種類の免疫細胞(immune cells)に分類されます。この分類のことを「白血球分画(differential white blood count)」と言います。↓
✒ 白血球の分類
上のFigureを見ただけで拒否反応(これも免疫用語です)をおこす人がいるでしょうが、各細胞の仕事を分けて覚えると、比較的簡単です。
免疫の重要な仕事は、自分の体のモノ(正常な細胞や組織、骨など)とそうでないモノ(細菌やウイルス、異常な細胞[がん細胞や感染を起こした細胞]など)を見分けることです。
そのために、体内をパトロールしていて、不信なものを見つけると職務質問(それが持っているマーカー[タンパク質の一種]を調べること)をかけ、必要に応じて初動攻撃を仕掛ける免疫細胞のグループがいます。
それが、以下の細胞です。
✒ パトロール部隊(自然免疫:innate immunity)
● 単球(monocyte)
正式名を「単核白血球」といい、白血球の中の3%~8%を占めます。直径が20~30μmと白血球の中で最大の細胞です。パトロールと初動攻撃の中心的役割をしています。血液中では単球ですが、血管から外へ出ると、アメーバーの様に自走できるマクロファージ(macrophage)に変身します。
また、異物をみつけてそれを処理すると、樹状細胞(dendritic cell)に変身し、処理した異物の特徴を全ての免疫細胞に向けて発信します。
活性化した樹状細胞
単球は、危機がせまると変身できる仮面ライダーのような変身ヒーローなのです。
● 顆粒球(granulocy)
顆粒球はさらに好中球、好酸球、好塩基球に分類されます。顕微鏡で見ますと上のFigureの様に、細胞内に小さなブツブツ(これを顆粒:granuleと言います)がありますので、こう名付けられています。また、顕微鏡で見やすいように色素で染めるのですが、中性の色素に染まるのが好中球、酸性で染まるのが好酸球、アルカリ性が好塩基球と呼ばれます。
顆粒球は白血球の殆どを占め、中でも好中球が最も多数派です。これらの細胞もパトロールと初動攻撃を行い、細菌などの異物をみつけると、自分の中に取り込み(これを貪食:phagocytosisと言います)、酵素の力で溶かしてしまいます。
● NK細胞(Natural killer cell)
正式名をナチュラルキラー細胞と言います。その名の通り、生まれつき(Natural)の殺し屋(Killer)です。血流に乗って体内をパトロールしていますが、他の細胞と違って、異物をみつけると職務質問ぬきでいきなり襲いかかるかなり過激な細胞です。
そして、この様なパトロール部隊の細胞グループは私達の体に生まれつき備わっているので、このグループが行う免疫活動のことを 自然免疫(innate immunity) と呼びます。
しかし、自然免疫を担当するパトロール部隊は、異物の発見がメインの仕事ですので、発見した異物の情報を本部(免疫システム)に登録して、攻撃を専属とする機動隊を編制してもらいます。
✒ 攻撃実行部隊
パトロール部隊から情報を受け取った本部は、その異物を専門に攻撃する機動隊を編制します。
その機動隊の役割をする免疫細胞がB細胞(B cell)とT細胞(T cell)です。T細胞はさらにヘルパーT細胞(helper T cell)、CTL(Cytotoxic T lymphocyte)、そして制御性T細胞(reguratory T cell)に分かれます。
● B細胞;飛び道具担当
B細胞のBは骨髄(Bone marrow)の略で、骨髄中で成熟します。B細胞は破壊された異物を貪食すると、抗原(antibody)と呼ばれるその異物に特徴的なタンパク質の情報を記憶します。
B細胞の最も重要な仕事は、抗原を覚えることと、その抗原に結合できる抗体(antibody)と呼ばれるタンパク質を作ることです。
この抗体とは、例えれば、弓矢の矢に相当するものです。B細胞はパトロール部隊から「指名手配の異物(過去に処理したことのある異物)発見」の知らせを受けると、この異物の抗原に強く結合する抗体(つまり、矢)を四方八方に飛ばします。
この様に抗体を飛ばすようになったB細胞を、形質細胞(plasmacyte)とかプラズマ細胞(plasma cell)と呼びます。
該当する抗原にこの矢が刺さる(これをFlagと言います)と、その異物や細胞は明確な攻撃の対象と認識され、攻撃部隊のT細胞やマクロファージ、NK細胞などが集まってきて袋だたきにします。この袋だたき(つまり、攻撃)の強さは、パトロール部隊の初動攻撃の比ではありません。
B細胞が抗原という矢を作り、四方八方に矢を飛ばして、標的の異物にFlagを立てる働きを「(体)液性免疫(humoral immunity)」と言います。
(液性免疫につきましては、後日、改めてご紹介します。)
● T細胞
T細胞のTは胸腺(thymus)の略で、T細胞は最終的に胸腺で成熟します。
● ヘルパーT細胞
ヘルパーT細胞は支援細胞とも司令細胞とも呼ばれますが、異物の攻撃に直接的には参加しませんが、マクロファージやNK細胞などの攻撃力を高めたり、抗原の情報を広めたりしています。
● CTL
これもT細胞の一種で、細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte)の略で、かつてはキラーT細胞(Killer T cell)と呼ばれていました。
その名が示すとおり、異物を直接攻撃し、破壊します。NK細胞が見境なしに異物を破壊するのに対し、CTLは特定の抗原を攻撃します。つまり、B細胞の放った矢が当たっている対象をメインに破壊します。
● 制御性T細胞
異物が侵入してくるとそれに反応して、T細胞やB細胞が大量生産されますが、どうしても一部の不良品が出来てしまい、異物だけでなく正常な自分の細胞や組織も攻撃するものが出てきます。そういった不良品の免疫細胞を処理するのが制御性T細胞です。
また、異物への攻撃が佳境に入ると、異物がすっかり処理されたにもかかわらず、免疫細胞の興奮が治まらないことがあります。そういった場合も制御性T細胞が攻撃を鎮静させます。
つまり、免疫細胞の攻撃性を終わらせる役目をしているのが制御性T細胞と言えます。
ここで、赤ん坊の時のT細胞やB細胞には抗原の記憶が殆どありません。歳を取ると共に、病気を経験することで、T細胞やB細胞に様々な抗原の記憶が蓄積されていきます。
この様に、徐々に獲得していく免疫記憶を 獲得免疫(acquired immunity) と言います。この獲得免疫は残念ながら一代限りのもので、子孫へは受け継がれません。
この様に、免疫細胞が組織的に協力して異物を攻撃するシステムのことを「細胞性免疫(cellular immunity)」と言います。
✨ 免疫寛容
以上が免疫システムの概略ですが、最後に、不思議なことがあります。
昨日お話しした、腸内細菌は人体にとって異物のはずですが、この腸内細菌に対しては免疫が攻撃を仕掛けることはありません。
さらに不思議なことは、食事で食べた食物はその殆どが異物ですが、消化管の中の食物を免疫が攻撃するようなことも起こりません。
この様に、日常的に接している異物に対しては免疫がわざと見逃すという行動を取っているという状態になっています。
これを 免疫寛容(immune tolerance) と呼びますが、これも免疫にとって重要な役割です。
これには制御性T細胞が深く関わっていると言われていますが、この免疫寛容がうまくいかないと、本来は害の無いものに免疫が無駄な攻撃を仕掛けて、食物アレルギーなどの炎症(アレルギー)を起こしてしまいます。
以上、本当にザクッと免疫の話をしましたが、詳細についてはいずれまた説明していきましょう。
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