皆さんこんにちはPartner of Medical Translatorsの津村です。
今日の天気予報でアナウンサーが「朝と夜の寒暖差が大きくなりますので、体を冷やして風邪をひかれませんように!」と言っていました。
風邪を引く原因は様々なウイルスによる感染ですが、今日はMedical Translatorの視点からウイルスについて考察してみたいと思います。
| 細菌とウイルスは全く違うもの
医学の歴史は感染症(infectious disease)との戦いの歴史と言っても過言ではありません。顕微鏡(Microscope)が発明されて、医学は飛躍的に発展し、感染症の原因は微生物(microorganism)だということが解ってきました。
そのため、近代まで、感染症に罹る人間や動物はもちろん生物ですが、微生物もまた生物で、感染症は生物と生物の相互作用(Interaction among organisms)によるものだと思われていました。
注意:微生物は細菌(bacteria)とは限りません。微生物とは単に「小さくて目に見えない生物」という言う意味です。ですから、細菌以外にも、ミジンコやミドリムシ、ギョウ虫、プランクトン、そしてウイルスなど多くのものを含む総称です。 |
ところが、さらに時代が進むと、感染症の新たな原因としてウイルス(virus)が発見されました。この発見は生物学界に一大ショックを与えました。なぜなら、ウイルスは生物としての特徴[細胞から出来ている、自らエネルギーを産生する、生殖機能がある・・・など、(詳しくはこちら)]を持っていないと言う点で「無生物」なのですが、その活動を見ると生物の様相(子孫を増やすなど)を呈している。つまり、自然界にはウイルスという、生物と無生物の狭間に存在する「モノ(thing)」がある、ということが当時の生物学者達の常識を覆してしまったのです。
ウイルスが生物でないことの最大の理由は、ウイルスには細胞の構造がないことです。ウイルスは大きくDNAウイルスとRNAウイルスに分類されますが、DNAもRNAも「核酸(nucleic acid)」という化学物質で、人間や動物の遺伝子(gene)に含まれているものと同じです。ウイルスはこの核酸をカプシド(capsid)と呼ばれるタンパク質で覆っているのが基本形ですが、それをさらにエンベロープ(envelope)と言われる脂質(lipid)で覆っているものと覆っていないものがあります。つまり、細胞に必要なリボゾームやゴルジ体、細胞膜等が一切無いのです。
また、人間の細胞の核の中には24種類48本のDNA(核酸:nucleic acid)を持っていますが、ウイルスの中には1本のDNAの、さらにそのほんの一部しか入っていません。従ってサイズを比較すると、ウイルスはひとつの細胞の1/1000程度(10~100nm)の大きさしかありません。これは、ウイルスをビー玉(1.7cm)くらいの大きさと仮定すると、ひとつの細胞(1μm)は4階建てのビル(17m)ほどの大きさになります。
いまよく天気予報に出てくるpm2.5という微粒子(fine particle)の直径は2.5µm(マイクロメートル)で、ヒトの髪の毛の直径の1/32ほどですが、それと比べても、ウイルスはpm2.5の1/100ほどの大ささにすぎません。そして、ウイルスの中には核酸しかありませんので、自らエネルギー作ったり、吸収や排泄をすることもありません。
コメント:細菌(bacteria)は生物の機能を全て備えているので生き物です。と、言うことは細菌も人間同様に排泄(つまり、ウンコ💩)をしているのです。そしてこの細菌のウンコが人体にとって有害な場合、その細菌はヒトに病気をもたらす「病原菌(pathogen)」となります。一方、細菌のウンコが人体にとって役立つ場合(例えば、乳酸菌や納豆菌、ビヒズス菌など)、その細菌は「善玉菌(probiotic)」と呼ばれます。細菌はただウンコ💩をしているだけなのですがねぇ。 |
つまり、ウイルスは酸をタンパク質と油が包んでいる微小物体であり、生物ではなくモノ(thing)なのです。ですので、ウイルスには生きているとか死んでいるという概念はあてはまりません。例えれば、道に転がっている小石に向かって、「おまえはもう死んでいる(ン、どっかで聞いたような・・・)」などとは言わないのと一緒です。モノであるウイルスは生存にエネルギーを必要としないので、通常の空気中でウイルスが自然に死ぬとか弱まるとか自ら動き回って子孫を残すなどと言うことはありません。
また、ウイルスは生理活動(physiological activity)をしていないので「死ぬ(寿命が尽きる)」ということもありません。しかし、ウイルス内のDNAやRNAが残存していても、それを覆っているカプシドやエンベロープが破損すると、宿主に感染することが出来なくなります。これをウイルスの「不活化(inactivation)」と呼びますが、これがウイルスにとっての死と考えることも出来ます。
ところが、子孫を残せないはずのウイルスには、人間や動物の細胞に入り込んで(これを感染と言います)、自分の中のDNAやRNA(遺伝因子:hereditary material)を宿主(host)の細胞の核に注入することで、自分のコピーを大量に作らせる能力があるのです。つまり、宿主の遺伝子を操作して、コピーを作らせているので、ウイルスはバイオテクノロジーの先駆者と言えるのです。
遺伝子操作で、生きている細胞にある種の遺伝子(DNA断片)を組み込む際にはウイルスのこの性質を使って、宿主のDNAに目的のDNA断片を人工的に組み込んでいます。この時に使われるウイルスのことをベクター(vector)と言います。
困ったことに、人体に備わっている免疫機能や治療薬である抗ウイルス剤などは、細胞の外にいるウイルスを攻撃することは出来るのですが、細胞の中にいるウイルス(これを潜伏:latencyと言います)には手出しが出来ないのです。なので、ウイルス疾患(エイズや帯状疱疹など)では、治療によって症状がなくなっても、微量の残存ウイルスが宿主の細胞内に潜伏しているので、再発が起こりやすく、完治が難しいのです。